スマートフォンをめぐる世界各国の企業の将来と、日本企業が(主にIT関連)商品の輸出に失敗する理由、FeliCa輸出失敗の裏事情についてご質問がありましたので、許可を得てこちらに回答を掲載させて頂きます。

決して、この見方が正しいというものではなく、むしろ、公の場に晒すことで皆様から叩き上げられることを目的としております。したがって、間違いは間違いと指摘してくださるととても嬉しく、ご質問主様にもできる限り正しい回答をご提示できると考えております。また、多くの方の意見を得ることで、私だけでなく、質問主様、そして皆様の考えも深まると思っております。

■頂いたご質問
Felicaのとこでわからなかったことがあるのでお尋ねします。まずAndroidはhtc samsung motorolaでシェアの大部分をわけあい、残りはジリ貧になる。もうすぐ低価格競争に突入し薄利多売になりこの三社も厳しくなる。Appleはシェアを落としつつも利益は確実に得られる状態になる。国際的にはこんな流れでいいとおもうのですが日本についてはよくわかりません。日本は最先端の独自規格、ここでいうfelicaなどを普及させたとありますが、なぜ日本はこれを輸出しなかったのでしょうか?

NFCがFelicaに劣る点はどこですか?また、日本が国際競争力に劣るのはやはりキャリアの要求通りにつくっていたというのもあると思うのですが、それ以前にi-mode輸出失敗のように海外のニーズがわかってないような気がするのですがその辺はどうなっているのですか?

国産スマートフォンの未来

国産スマートフォンは、今後2つのジレンマに悩まされることになると考えています。ただし、そのジレンマの原因には共通点があり、それは、大量生産すれば製品1つあたりの経費を低減できるという “規模の経済” という経済効果にあるとみています。

1つ目のジレンマは、2013年初頭頃まで継続する「スペック競争への乗り遅れ」です。

AppleのiPhone、SAMSUNGのGALAXYは規模の経済を最大限利かせている製品であり、高性能な部品を他社と比較して安価に搭載することができます。一方、国産スマートフォンは国内市場向けに作られた製品である以上、その市場規模は小さく、規模の経済が働きにくい状況から脱却できません。したがって、外国産スマートフォンと比較すると非常に高価になるか、劣った部品が搭載されることになります。

また、人員削減・開発コスト減も避けられませんので、チューニング不足の端末が発売されることや、通信や通話といった最も基本的な機能ですらテストされず、電話の最も重要な機能ですらバグで利用できないといったことも考えられます。

このような状況で、外国産スマートフォンと対峙するのは非常に難しいと考えます。無論、スペック以外を重視する消費者がいますが、それでも2つ目のジレンマが待ち受けています。

2つ目のジレンマは、「低価格競争」に2013年半ば頃から突入するという点です。

SoCメーカーのロードマップや次世代通信規格「LTE」の普及スケジュールを考慮すると、スマートフォンに求められる必要十分な機能(ブラウジング等)を快適に利用できるスペックを有した端末が非常に安価に提供できるのが2013年半ば頃です。スペック以外を重視する消費者には、ミドルレンジからローエンドの製品が安くて十分に思えるものです。こうなると、一気に低価格競争に突入します。

この低価格競争に突入した際にもネックとなるのが、前述した「規模の経済」効果です。売り込む先の市場規模が小さければ薄利多売すら実現できません。こうなると、国産メーカーは液晶テレビやパソコンと同様に撤退を強いられることになります

残念ながら、国産スマートフォンの未来は決して明るくないと考えています。ニッチな需要を満たして、社員を養うだけの産業を続けていくか、その是非も株主から問われることになります。(※例えばガラケー製造など。養うだけの日本型産業に管理人は賛成しています)

FeliCaを欧米に広く輸出しなかった理由

FeliCaに関しては、正直なところハッキリとした理由は挙げられません。これは政治的意味合いが色濃く、20年後位に明らかになるものであると考えています。理由はいくつかあるので、そのうち2つを挙げさせて頂きます。

1.非接触通信で実現する電子マネーは金融政策と深く結びつくため、日本が主導権を握ることを絶対に避けたい米国が何らかを引き合いに出して、ソニー(経済産業省)の進出を拒んた説。

この件は本が1冊書けてしまう程の内容なのですが、電子マネーは金融と深く結びついています。実は、日本でも海外資本の参入を拒むために障壁を設けています。

掻い摘むと、日本で電子マネーを運用しようとすると、ほぼ「銀行」が必要になります。突如乱立したソニー銀行、イオン銀行、セブン銀行、じぶん銀行なども電子マネー戦略の一環として取り込まれている事業です。

「非接触通信と金融が結びつく?」と思われるかもしれませんが、AppleがNFCによる決済をiTunesアカウントで行うとの憶測が流れていることをはじめとして、GoogleもApple同様にNFC(手数料部分)に注力していることを考慮すると、NFC決済で膨大な利益が生まれることは容易に考えられ、”見えないお金” の実態を把握できる(国側の)メリットの高さも相当なものであると考えられます。

2.JR東日本のSuica(ソニー)が原因である説。

管理人はこれを一番有力視しています。

ソニーはSuicaにFeliCaが採用されることを急ぎすぎたと考えています。WTO加盟国には「TBT協定」というものがあり、貿易に際して技術的障害を無くしてゆくという決まりごとがあります。実は、このTBT協定に違反するものが2000年当時のFeliCaなのです。

TBT協定では、政府(NTTやJRは準ずる団体として見られた模様)が調達する物はISO国際標準規格に則ったものでなくてはならないとしています。Suicaの事例と同様に、住民基本台帳カード・運転免許証・IC付きパスポートにはNFC Type-Bの規格が採用されており、タスポにはType-Aの規格が採用されています。つまり、公共に関するものは全てTBT協定を考慮して標準規格が採用されているのです。

ところが、当時のFeliCaは通信部分もISO規格ではなかったので、日本側は窮地に立たされました。実際、JR東日本がFeliCaを採用すると発表したところ、「それはWTOの協定に違反する」と “とある企業” から異議が申し立てられました。そこで、FeliCaがISO標準になる手伝いを “とある企業” にしてもらう代わりに、とある企業が海外のマーケットシェアを支配する約束事が行われたのではないか?と考えています。

それでも、結果的には妥協されてISO標準になったのはFeliCaの通信部分だけです(標準部分の件に関しては、ソニー側が情報開示を拒んだからなどの諸説があります)。

いずれにせよ、その代わりに手に入れたのはSuicaによるFeliCa採用ですので、その代償が大きいか、小さいかは今現在では判断しかねます。

このようにFeliCaに関しては、貿易摩擦という非常に政治的要素が強いものですので一概に日本企業の国際競争力では語れません。

NFC TypeAとTypeBがFeliCaに劣る部分

NFC Type A/BとFeliCaを比較する際、よく挙げられるのが「速度」の部分です。FeliCaは改札口などでの利用も前提にして開発を進めてきた経緯もあり、処理速度が高速化されています。

JR東日本は処理速度に非常にこだわっており、ミリセカンド(ms)レベルでの速さを要求しています。このことに『過剰性能を求める日本の悪しき習慣だ』などの批判的な意見も見受けられますが、日本という風土を非常によく理解した要求仕様であると管理人は考えています。

日本の場合、電車のダイヤが分単位で緻密であり、運転手レベルになると秒単位で運転しています。このような社会的背景があり、時刻が曖昧な他国とは比較になりません。

また、乗り換えのシビアさや人口密度、国民性などを考慮すると改札口での遅延は、場合によっては後続の人との衝突事故を引き起こしかねない事態に発展する可能性があります。例えば、朝のラッシュ時に改札口で電子マネーの認証で列をなす後継を想像してみてください。日本の主要駅は他国と比較にならない程混雑するので、急ぐ人が押し合うなどして将棋倒しの危険性があります。

JR東日本のようなインフラを任される企業には、そういった安全設計が求められます。

スマートフォンをめぐる将来について
~日本企業は海外のニーズが分からない!?~

スマートフォンをめぐる世界的な勢力争いに対する見方は、ご質問にあるような見方で正しいと私も考えています。ただし、サムスンに関してはHTCやモトローラとは同列に語ることができず、他社よりも1歩以上リードしていると考えています。

サムスンの場合、手法はどうであれ「Apple vs SAMSUNG」という構図の構築に成功したのが非常に有利に働いています。つまり「Apple vs Android」の構図では、消費者がAndroid端末を発売するメーカー各社に分散するのに対し、「Appleと唯一対抗するAndroidのハイエンド(代表格)はSAMSUNGのGALAXYである」という構図を構築したことによって、消費者は「iPhoneか、SAMSUNGか」という選択肢で悩むことになります。

この現象の一端を今現在の日本における端末販売ランキングでも見て取ることができ、GALAXYが唯一、iPhoneの上位機種に食い込む状況になっています。よく、ネット上ではサムスンが行き当たりばったりの手法で闇雲にAppleを模倣したと言われていますが、私はその逆で「全てサムスンの狙い通り」であると考えています。

サムスンが他社と差別化するために、徹底的に「iPhoneのライバルはSAMSUNGのGALAXYである!」という戦略を採ったのではないかと推測しています。特に訴訟合戦に持ち込めば、明示的に対決してることがニュースになりますのでサムスンとしても喜んでいるのではないでしょうか(※極端な話ですが…)。

ただし、ドイツ・オーストラリアでの販売停止命令はサムスンも予想外であったと管理人は見ています。

現時点(立ち上がり期)におけるGALAXYの販売モデルは、新規出店を繰り返えさないと息が絶えてしまうヤマダ電機やイオンと似ています。GALAXYは周囲のメーカーを完全撤退させるまで、非常にギリギリな戦いをしているので、市場規模が小さくなるとあっという間に、ドミノのように崩れていく恐れがあります。

つまり、Appleのように売れる保証がないにも関わらずAppleと同等レベルで仕入れ・製造を行なっているのです。規模の経済を利かすために賭けに出ているのがGALAXYですので、市場規模の縮小は絶対に避けなければなりません。Appleもそのアキレス腱を理解しているので、徹底的にサムスンと法廷で争っています。

そういった意味で、Nexusブランドをサムスンが手に入れたことは非常に重要なことであり、GALAXY Nexusを日本で半ば優先的に発売することの意味の大きさを深読みせざるを得ません。

海外進出する日本企業に足りないものとは ~日本企業は海外のニーズが分からない!?~

さて、前項ではご質問と関係の無いようなことを長々と書き連ねてきましたが、実はサムスンのやり方こそが、世界的に活躍できない日本企業に足りないものです(※サムスンのように他社を無秩序に模倣しろといってるワケではありません)。

日本企業が世界でパッケージ(商品)を売ることができないのは、最初から日本国内の需要、つまり、内需に向いて開発をしているからだと考えています。実は、日本企業は世界のニーズを理解していることが多いものです。しかし売り方が悪い。

韓国は日本と比較しても国土が狭いですし、人口も少なく、それに比例して市場規模も小さいです。その一方で、日本はそれなりの規模の企業が成り立つ程、市場が拡大しています。国内需要相手では企業が成り立ちにくい韓国は、初めから世界で売ることを考えています。

そこで、韓国(サムスン)はいかにして海外に売り込むかを徹底的に考えて事業運営計画策定や商品開発に取り掛かります。

例えば、1990年代当時、ブランド力が日本企業に比べて圧倒的に弱いという自社の弱みを正しく理解し、2000年以降はブランド力を徹底的に高める戦略を採りました。

(推測ですが)欧米諸国において「韓国製品は粗悪である」という不当な評価を覆す為に、日本の富士山を広告で利用することもありました。「ほら、日本製品だと思って買った製品は韓国製品でしたよ?損しましたか?しなかったでしょう」と、知ってもらうためです。こちらも、本1冊書けてしまうほどの多彩な戦略を行い、結果的には家電の王様であったテレビの侵食にも成功してしまいました。

リビングに “SAMSUNGブランド” が日常的に存在することで、ブランドに対する安心感はグッと高まります。このようなブランド戦略に加え、製品単体では勝負せずにブランドを通じた複合的価値で売り込む戦略によって、サムスンは世界的メーカーにのし上がったのです。

そして2000年代後半、その土台を築いた上でスマートフォンで勝負を仕掛けました。

これだけを見ても、日本のスマホは「○○の機能搭載!」「○○GHzの高スペック端末!」というような、製品だけ磨くことで『競争しているつもり』になっているのに対し、サムスンはテレビを売り込む戦略まで内包している売り方であることが分かるかと思います。いきなり、ARROWSというブランドを立ち上げて富士通で世界を目指しても無謀であることが分かるかと思います。

同様の戦略を国産メーカーも真似て「REGZA Phone」や「AQUOS PHONE」といったブランドで展開していますが、REGZAもAQUOSも海外ではSAMSUNGの足元にも及ばないブランドですので、それを冠したスマートフォンを売りに出したとしても売れることはないでしょう。

その上、サムスンはスマートフォンだけでは飽き足りず、ソフトウェアの世界まで侵略を始めています。

例えば、サムスン製テレビによるスマートテレビもその一つ。サムスン製品は「テレビ+スマホ+タブレット+インターネット」といったようにネットワークで繋がる魅力的な製品であるとアピールできるのに対し、国産スマートフォンは先がまるで無い、売り切るだけの、発展性のない尻すぼみの製品です。もちろん、「ネットワークでつながったから価値があるの?」「俺はいらないよ?」といご意見も多数あるかと思います。しかし、そこにソフトウェア的価値が加わったらどうでしょうか? ソフトウェア的価値の代表例がiTunesです。

Apple製品はiTunesというソフトウェアをハブにして繋がり、そこで培ったコンテンツをiPod、iPhone、iPad、Macといった各製品に流しこむことで各々の魅力を高めています。その一方で、Appleはテレビへの固執を絶対にやめません。スティーブ・ジョブズの公式伝記によると、ジョブズ本人が死の間際まで、テレビ開発を行なっていたとのことです。つまり、まもなくApple製テレビが出てきます。

なぜAppleがここまでテレビにこだわるのか?

それは、Appleには存在しないがサムスンには存在する「ハードウェアのハブ的存在」を手に入れたいからです。そのハブとは常に電源に接続された「テレビ」を指します。ハードウェアのハブならば「Mac」や「iPad」があるではないか、と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、どうやらAppleは、その役目はMacやタブレットでは荷が重すぎると考えているようです。

逆にサムスンは、iTunesに相当する「ソフトウェアのハブ的存在」を持っていません。サムスンは自社のみでiTunesに対抗するソフトウェアネットワークを構築することを最初から諦めているので、Googleをパートナーとしています。

5年後、欧米の一部の家庭ではサムスン製のあらゆる家電がネットに繋がっているという、日本企業が10年前に夢見た世界をサムスンが実現していると管理人は予想しています。また、このソフトとハードの両方のハブを手に入れた企業は、恐らく20年は無敵の存在になるとも管理人は予想しています。

このチャンスを目の前にしながら、ドブに捨てた企業がソニーです。

私が、ソニーのニュースで毎度のように「徹底的に自社製品サービスを繋げ」と言っているのはこの為です。Appleもサムスンも、かつてのソニーのモデルを参照・参考にしていることは間違いありません。

途中まで世界での売り方をわかっていた唯一の日本企業、ソニーが今の状況に甘んじていることは悔しいものです。映画、音楽、ゲーム、テレビ、オーディオ、電話、タブレットなど世界各国の企業が欲しがるものを持っているのに、なぜ動かないのか不思議でなりません。

私たちはこれからの若い世代に、製品や技術を磨くことに加え、同時に「パッケージを売る」大切さも教えなくてはなりません。

技術力やチーム性に焦点を当てた「プロジェクトX」や「プロフェッショナル仕事の流儀」「夢の扉」のようなテレビ番組を観て日本の技術に涙を流すのも悪くありません。しかし、それだけではもうダメだと考えています。

少なくとも、今の10代には「技術の鍛錬」と「パッケージの売り込み方」は両方ともに大切であると教えなくてはなりません。技術の鍛錬に偏りすぎてることこそが、世界で羽ばたけない原因になっているのではないでしょうか。