ディズニーランド技術の裏側 新しいショーがスゴイ!

(週末特別版)

 今回は、いつもと違って”夢”のある話をお届けします!

 とはいえ、ガジェ速らしく主役は「映像と音響」。最後もガジェ速らしく締めます。ディズニーの技術的裏話を楽しみつつ、最後に大切なこと考えていただけたら幸いです。ともあれ、まずは下の動画をご覧ください!

 このショーは、アメリカ・フロリダ州のウォルト・ディズニー・ワールドで開催されている「Magic, Memories, and You!」というショーの季節限定版です。

 このショーに使われているのは「プロジェクションマッピング」という技術で、プロジェクターを使ってシンデレラ城に映像を投影しています。一見すると映像をただ映しているだけにしか見えません。いや、実際にただ映しているだけなのですが、その”ただ映す”のがいかに難しいか、プロジェクターを扱った人なら想像できるのではないでしょうか。

 プロジェクターは、ピントや投影サイズを合わせる苦労が伴います。室内のわずか数メートルの距離ですら苦労するのですから、何十メートル、いや、百メートル近く離れた場所から投影するのは至難の業といえるでしょう。角度が1度ズレただけで、投影先のシンデレラ城では大幅にズレてしまいますから。

 プロジェクションマッピング自体は様々なイベントなどで活用されており、ここ数年で注目度が高まっています。しかし、このショーはクオリティが他とは一味も二味も違うのです。その理由や、ディズニーテーマパークにおける技術的側面について紹介していきます。

プロジェクションマッピングの紹介に必ずと言って良いほど登場する動画
平面スクリーン+車(実物)の合わせ技

映像編:シンデレラ城はスクリーンに適さない

 通常、プロジェクションマッピングには平面のビルか、多少の凹凸があるにせよ、深度差が大きくないものを選択します。ここでいう「深度」とはプロジェクターの光源から投影面までの距離のことで、一様な平面スクリーンならどの点においても互いの深度差は0になります。


スクリーンに適さない形状

 ところが、シンデレラ城は円柱状の塔がそれぞれ10メートル以上離れており、その上、平面はほぼ存在しません。さらに先端に行くほど細くなっており、いびつな形をしています。つまり、シンデレラ城はスクリーンを選定する際、真っ先に除外されるタイプなのです。

 深度差が大きいとピント合わせが困難になります。なぜなら、手前の塔にピントを合わせると、奥にある塔ではボヤけてしまうからです。さらに、手前の塔で作られる影が後ろの塔に被ることもあります。

 それらの問題を解決するために、このショーでは4カ所に合計16台のプロジェクターを配置しています。16台のプロジェクターを使って複数の塔にピントを合わせ、さらに、手前の塔で作られた影を別のプロジェクターの光で打ち消すのです。


プロジェクターの位置 (画像:Inside the Magic)

 その結果、下のHDR写真のような演出が可能になりました。

 一瞬で氷のようなシンデレラ城に変わることも!

映像編:製作方法はやっぱり秘密

  過去のシンデレラ城は、ライトアップに約20万個のLEDだけを使用していました。(今現在も併用)

  このLEDは一部分だけを点灯させたり、流れ星のように点滅させたりできます。これに比べると、プロジェクションマッピングでは表現力が格段に向上しています。その一方で、4カ所バラバラに配置された16台のプロジェクターを同期させ、凹凸のあるシンデレラ城にピッタリ合う映像を作るのは一筋縄では行かないとのことです。(※ディズニーらしく、詳細な制作過程については明らかにされていませんが。)

 プロジェクションマッピングの基本概念は3DCGと似ています。3DCGがワイヤフレームの上に画像テクスチャを張っていくように、物理空間に存在する建造物に光のテクスチャを投影していくのです。

 製作過程については推測するしかないのですが、他のプロジェクションマッピングを使ったイベントと同様に、ソフトウェア上でエミュレーションする方法と、ミニチュア模型を作ってそこに投影する方法を併用するアプローチが採られたのではないかと思われます。なお、実物のシンデレラ城でマッピングテストを行った際の写真が下のものです。


制作過程 (画像:Inside the Magic)


汎用的なソフトウェアツール
(※ディズニーで使用されたものではない)
IRWorkshop Mapio demo from Vladimir Dronov on Vimeo.)

 恥ずかしながらプロジェクションマッピングについては一年ほど前まで知らなかったのですが、一度見たら虜になってしまうほどの訴求力があります! 東京ディズニーランドでもこの技術が使われるようになれば手軽に見ることが出来るようになると思うので、その日を楽しみにしています。

音響編:ディズニー、音響へのこだわり

  次は身近に体験できる東京ディズニーランドの音響設備についてご紹介します。

 ディズニーの音響を語る時、「パレード」は外せない存在です。特にエレクトリカルパレード・ドリームライツは、あの有名な曲も相成って人気のあるパレードの1つです。でもあのパレード、ただ光って音を鳴らしているだけではない事はご存じでしょうか?

 華やかな光のショーの裏側には、とても他のテーマパークには追従することのできない、テクノロジーの塊ともいえる「テクノロジーショー」的側面が存在しているのです。

音響編:スピーカーが奏でるハーモニー

 ディズニーのパレードは、主に2種類のスピーカーから流れる音がシンクロし合って1つの曲になります。(凄いと言われているのは、このシンクロ技術です。)

 2種類のスピーカーの説明をすると、まず1種類は、パレードが通る「パレードルート」に設置された固定式スピーカーです。このスピーカーは指向性の強さが特徴で、全長約900メートルのルートに200台近く設置されています。


固定スピーカー

 もう1種類は、フロート(山車)に設置されたスピーカーです。極指向性のスピーカーが設置されており、その方向は基本的に「進行方向」および「進行方向に左右直角の向き」に向いています。従って、進行方向の逆側では音がほとんど聞こえません。


過ぎ去った方向には音が聞こえにくい仕組み

 200台近い固定スピーカーは30以上のブロックに区切られています。そして、各々のフロートに合わせて作曲された「アンダーライナー」というベース音楽が流され、それらはフロートの通過状況に合わせてリアルタイムに切り替わります。

 一方、フロートのスピーカーからは、主にキャラクターの声や効果音、テーマ曲(例:プーさんフロートならプーさんの音楽)が流れています。

 指向性スピーカーの効果により、フロートが自分の正面にいるときはキャラクターの声やテーマ曲がはっきりと聞こえますが、自分の前をわずかに過ぎるとほとんど聞こえなくなります。それと同時に、固定スピーカーからは次に来るフロートに合わせて作曲されたアンダーライナーが流れているのです。

 約200台のスピーカーを30ものブロックに区切りつつ、指向性のスピーカーを巧みに使い分けることで、どこで観ても同じようにパレード楽しむことが可能になります。

 下の動画は、シンクロし合う2つの音が再現されたものです。
(※オープニング曲が一部短縮されている)

 この動画では、シンデレラ城を正面にしてパレードが左からくる位置で鑑賞している状況が再現されています。いわゆる園内におけるベストポジションです。

 動画が始まってすぐは、まだ目の前にフロートが到着していません。したがって固定スピーカーから流れるアンダーライナーは無音です。ただし、左側からフロートが徐々に近づいて来てるため、フロート搭載スピーカーからのテーマ曲やセリフが少し聞こえています。これは、パレードが近づいてくるという雰囲気を作り上げて、気分を高揚させるためにあえて聞かせている意味もあります。

 動画の19秒でフロートが所定の位置に近づいたため、固定スピーカーから有名なオープニング曲がアンダーライナーとして流れ始めます。そしてタイミングよくフロートが到着した動画の1分15秒でアンダーライナーとフロートのテーマ曲がピッタリ一致します。

 驚くことにこれは再現上の話ではなく、ほぼこのクオリティで上演されているのです(※一部短縮されているため動画は1分15秒ですが、実際は一致するタイミング [フロート到着] まで3分程度の時間があります)。

 なお、動画はシンデレラ城前で鑑賞している状態が再現されているものですが、鑑賞する場所によってはアンダーライナーで待機用アンダーライナー(ズン・ズン・ズン)がしばらく流れた後にフロートが到着することがあります。例えば下の画像の位置など。

 画像の赤丸の位置からはパレードのスタート位置が直線で望めます。そのため、フロートからのテーマ曲やキャラクターのセリフが早いうちから届きやすく、なかなか到着しないパレードに観客がじれったい想いをします。そこで、ストレスが強くなる前にあえてオープニング曲を早めに流すことでストレスを一旦軽減させます。その副作用でオープニング曲が流れてからパレード到着までの時間が長くなるので、待機用ベース音がしばらく流れることになるのです。

 このように、ディズニーランドのパレードは音の伝搬特性などを考慮して、「こんなことまで計算されていたのか!」というほど緻密に作られているのです。

制御編:パレードを同期する仕組み

 音響の仕組みはこれまで説明したとおりですが、肝心の同期はどのように行われているのでしょうか。もし、2種類のスピーカーがバラバラの音を奏でていたら不協和音でしかありませんし、セリフやキャラクターの動きに合わせて電飾を制御する必要があります。そこで、制御編では主に「同期」についてご紹介します。

 パレードの制御は、主にDTMFトーンとSMPTEタイムコードで行われています。詳しい説明はここでは省略しますが、DTMFとはプッシュホンなどの番号ボタンを押した際の「ピ・ポ・パ」という独特の音で有名な合成信号の伝送方式です。このDTMFトーンを園内のどこからも見える場所、つまりシンデレラ城の先端に取り付けられたアンテナからパレード公演中は常に流し続けています。

 DTMFトーンを受信したフロートは、それにしたがってSMPTEタイムコードのフォーマットに従ってタイミング信号を発生させて、電飾や仕掛け(アニメーションと呼ばれる)の制御を行います。これらの仕組みによって、音楽は1秒未満、電飾は30ミリ秒レベルで同期が可能です。電話と同じピ・ポ・パ音があのパレードを制御してるとは不思議な感じがしますね。

 なお、エレクトリカルパレードでは音楽と電飾がシンクロする演出を行っているので、アンダーライナー・フロートスピーカー・電飾の3つをシンクロさせる必要があります。例えば、3つがシンクロした瞬間が下の動画の5分17秒です。

 イッツ・ア・スモール・ワールドのテーマ曲が区切れた瞬間、電飾が白一色からカラフルなものに変わります。でも、この仕組みはDTMFとSMPTEだけでは実現できません。

 なぜなら、その2つの技術だけでは固定スピーカーの前に存在するフロートの種類が認識できず、何のアンダーライナーを固定スピーカーから流すべきなのか分からないからです。DTMFとSMPTEで同期きるのはフロートスピーカーと電飾の2つのみです。

(補足:ピーターパンのフロートが目の前にいるのにプーさん用のゆっくりとした曲が流れてたら不自然ですね。正しいパレードを行うには、目の前にピーターパンのフロートがいると認識し、ピーターパン用のアンダーライナーを流してあげる必要があるのです。)

 もし、時間決め打ち方式で「〇〇時□□分××秒には△△のフロートが通過するからそれに合わせて音楽を流す」といった方法を採用した場合、途中でトラブルがあった場合や、急な降雨でスピードを速める場合に困ってしまいます。実際、フロートの故障などで5~10分間ほど同じ位置に留まり続ける(=パレード全体の進行が止まる)ようなことが発生しています。このようなイレギュラーなパターンが発生した時に、時間決め打ち方式ではズレが生じてしまうのです。では、どうやって位置を把握しているのでしょうか?

 実は、高速道路などでおなじみの「オービス(速度取締器)」でも使われている「ループコイル」が用いられています。地面に埋められているコイルによってフロートの通過状況を中央の制御コンピュータが把握しているのです。

 通過状況が分かればどこに何のフロートがいるのかが一目瞭然です。イレギュラーな停止や加速にも対応できます。そして中央の制御コンピュータと固定式スピーカーは直結されており、フロートの通過状況に合わせて固定スピーカーに流すべきアンダーライナー(音ソース)を配信します。これらの配信も、先のDTMFなどと全て結びついていますので一貫して同期をとることが可能になるのです。

 もし全てのフロートが通過し終えれば、クロージング(終了)のアンダーライナーを固定スピーカーに配信してその場所でのパレードは終了します。この仕組みがあるからこそ、スタート地点とゴール地点で時間差があっても順次「開始→終了」を繰り返していくことが可能なのです。

 

※下の動画はパレード終了時の処理の流れ

※区画=約200台の固定スピーカーが約30分割されたうちの1区画
8分21秒
: (終了間際のシーン)
8分45秒付近:区画外にフロートが抜けたことをループコイルが検知→待機モードへ移行準備
8分54秒:待機用アンダーライナー配信
9分00秒付近:パレードの終端が隣の区画に入ったことをループコイルが検知→クロージングモードへ移行準備
9分09秒:クロージング用アンダーライナー配信

 さらに凄いことに、フロート側でもコイルを読み取って現在位置を把握しています。これにより、現在位置と記録された各固定スピーカーまでの距離を算出して、フロートから発せられる音が大きくなりすぎないようにリアルタイムで音量調節しています。なぜなら、極指向性のスピーカーが進行方向側に向いて取り付けられているため、アンダーライナーとフロートの音量バランスが取れないと、前にいるフロートの音を邪魔してしまう恐れがあるからです。

 「そんな些細なことを…」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、細かいところまでこだわるからこそ、完全なショーで人々を魅了することが出来るのです。

魔法の裏に技術アリ

 ディズニーテーマパークには、最新技術や驚くべき技術が使われている物がまだまだたくさんあります。レールが無いのに不思議な動きをする「プーさんのハニーハント」はWi-Fiとループコイルを使ったローカルGPSが採用され、アメリカではRFIDや顔認識技術を使った仕掛けが人々を驚かせています。

 また、東京ディズニーシーで公演中の「ファンタズミック!」は最新の噴水技術とソニー製HDプロジェクターが投入されています。そして、1992年に始まった「ファンタズミック!」のアメリカ版は噴水ショーの先駆け的存在であり、後にラスベガスのベラージオで開催されることになる噴水ショーに大きな影響を与えました。ディズニーは素晴らしい演出を実現するために、最新技術の開発と投入に余念がありません。

 

 今回、ガジェット速報とは水と油の関係にあるような話題をお送りしてきました。「ディズニーランドは子供の遊び場だ」というご意見もあるかもしれません。しかし、人々を魅了する”魔法”を支えているものは、最新技術やこだわる心なのです。

 「技術で魔法を実現する

 管理人はこの言葉こそ、日本に欠けているものだと考えています。日本では、「魔法」の部分を見るとどうしても恥ずかしい気持ちが生まれ、子供向けだと笑う心が先行してしまっているように感じるのです。

 でも、どうでしょう。いま、世に受け入れられている商品は魔法のような楽しみを提供してくれるモノばかりです。そして日本は、魔法を実現するために技術開発を行うのではなく、素晴らしい技術を生み出すために技術開発を行う傾向があります。これが、パッケージ化できない最もな原因だと考えています。いわゆる、「ビジョンの不在」です。

 「魔法のようだ

 そんなセリフが流れるCMに登場した1台のマシン。その後継機に沸き立つ世界を見ると、魔法が持つ無限の可能性を感じずにはいられません。もしかすると、”たかが魔法”も捨てたものではないかもしれませんね。

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