標準仕様が分裂するとは一体何事かと思いますが、HTML5の仕様策定を行っていたW3CとWHATWGがより良い形で『発展的な分担』を行うことになりました。「意味が分からない、何を言ってるんだ?」と言われそうですが、非常にナイーブなお話でして、表現に困ることを象徴しているかもしれません。

W3Cといえば、Web標準化団体などと称されてご存じの方も多いのではないでしょうか。一方のWHATWGは、Apple・Mozilla・Operaに関連するメンバーによって設立されたコミュニティです(誰でも参加可能)。

この双方がHTML5の仕様策定に取り組んできたのですが、この度分裂することになりました(「分裂」と表現すると怒られるのですが)。そして、HTML5という規格も「HTML Living Standard版」と「Snapshot版」に分かれることになりました(後者は正式名称ではない)。ソフトウェアでよくある「開発版」と「安定版」のようなものです。前者を推進するのはWHATWG、後者がW3Cになります。

二者がHTML5仕様策定に共同で取り組むことになった経緯には深い歴史があります。

Webの世界ではHTTPの仕様策定の時から、「標準とは何であるべきなのか」という考えと「ビジネスのスピードに合わせた方が良い」という2種類の考え方が存在しました。Microsoftが後者の立場で奮闘していた時期もあったのですが、最終的には前者の考えが取り入れられて『Webがここまで進化したのは標準のあるべき姿を追求した結果である』という考えが広まっています。

Microsoftがウェブの世界で “ボロクソ” に叩かれるきっかけになったのも、これが原因の一つかもしれません。

ところが「Google maps」に代表されるように、従来の「ホームページ」的なものとは違ったWebアプリケーションというものが数年前から出てきました。従来のWebの使い方とは一線を画すものです。それの辺を境に「Webでもいろいろなことが出来る!」という流れがブームになり、Twitterなどに代表されるようにビジネスとWebは切っても切れない仲になったのです。

その結果、ビジネスのスピードと学術的立場を踏襲する標準化団体の間に温度差が生じ始めました。そこで、W3Cに対して不満を持つメンバーらが設立したコミュニティがWHATWGです。

しばらくは共同で作業を続けていましたが、何度も何度も衝突・考えの相違が生じました。そして今回の決断に至ります。WHATWG側からすると「W3Cはとにかく仕事が遅い、崇高な標準を決めるためにムダな時間を費やしてる」といったような印象をW3Cに対して持っています。

HTTPプロトコルを策定していた時は、Microsoftという一企業(厳密はその他にも複数企業が自社規格を標準に内包させようと活動していた)とW3Cという団体のパワーバランスは比較的良好に保たれていましたが、今現在ではW3Cの立場が非常に弱くなっているように思えます。

Mozilla、Apple、Operaに関連する人物がWHATWGの設立に携わっていることを踏まえると、その影響力の大きさを察することができるのではないでしょうか(※GoogleはWebkitをChromeで利用していますが、今回はうまく立ち回るような気がします)。

WHATWGの影響力が以前のMicrosoftのように小さくないこともあってか、HTTPプロトコルのように1つの答えを出すのではなく、2つの答えが生まれてしまいました。こうなると標準化とは何だったのかと言わざるを得ない状況です。

WHATWGからすれば、自分の規格に「Living Standard」という名称を付ける位なので、『こっちが生きてる標準規格だ!』と言いたいところで、W3Cのものが「Snapshot」と表現されるように、『そんなに標準化手順を順守したいならお好きにどうぞ。スナップショットでも作ってろ!』という感じです。

ただ、WHATWGの立場からすれば決定は非常に合理的で、素早く規格策定するチームとそれを文書化するチームに分けて分業したような構図になります。なので分裂と表現すると怒られてしまうのです。

W3Cの立場からすると…恐らく良い想いはしないでしょう。

 

標準規格には答えが1つであって欲しいものですが、WHATWGとW3Cのどちらが将来的にメリットがあるかは慎重に検討しなければなりません。

Webがビジネスと深く結びつき、10年前とは全く別の姿をしている現状を無視できませんし、その一方で企業の思惑がゴリ押しされて標準化されるプロセスは手放しに褒められるものではありません。

一般的なWeb関連開発者の方は基本的に「HTML Living Standard」側を踏襲しておけば良いのですが(なぜならブラウザはそっちを踏襲するから)、HTML5のさらなる分断化はより一層深刻になりました。

[TechCrunch]