楽天「kobo Touch」を試して、楽天koboに思うこと

楽天が販売する「kobo Touch」をこのタイミングだからこそ触れてみようと思います。立ち上がりのトラブル、書籍タイトル数など、発売から今に至るまで色々な意味で話題の同製品。

レビューは出尽くした感があるので端末は軽く触れる程度に、「初期に伝えられた不満点は改善されているのか」といった点や、「koboに関する話題・騒動」を管理人なりに読み解きたいと思います。

電子書籍における「商品」とは何か

いきなりですが、電子書籍サービスにおける商品とは一体何でしょうか。

真っ先に思いつくのは「電子書籍コンテンツ」。芥川賞を受賞した話題の著書に人気の漫画など、これが無ければ話が始まりません。ところが、コンテンツだけあれば良いのか?というと違います。

他には、書籍コンテンツの販売・管理を行う「配信プラットフォーム」が必要です。読みやすさを左右する「電子書籍リーダー」も必要となることでしょう。電子書籍リーダーは様々なメーカーが発売しているので専用端末は無くても困りませんが、魅力的な専用端末は配信プラットフォーム自体の価値を高めてくれます。

実は、これら3つをまとめて「1つの商品」と考えなくてはならないと、管理人は考えています。Amazonが、競合「Nexus 7」「iPad」の存在にも諦めず新端末をリリースし続けるのは、上記3つが揃って1つになる事の重要性をよく知っているからです。

なぜ、こんな前置きをしたのかというと、これから読み進める上で「3つが全て大切・3つ揃うことで相乗効果を産み出す」ということを念頭に置いて頂きたいからです。このことは電子書籍端末を選ぶうえで非常に重要なポイントとなりますので、これから電子書籍端末の購入を決める方は覚えておくと良いかもしれません。

電子機器らしさを取り払った端末

さて、前置きはそこそこに端末を見ていきましょう。

楽天のkobo Touchは「誰に訴求するべきであるか」が明確に表れている端末のようです。特徴的なのは背面のデザイン。背面はキルティングを模した加工が施され、ガジェットらしさとは一線を画します。好き好みはありますが、キルティング加工を無意識に触ってしまう気持ち良さがあります。

カラー展開は全部で4色。「ブルー」や「ピンク」のパステル色が目を惹きますが、ベタ色ではなくサテン系の光沢で仕上げられており、女性ユーザーを意識したデザインなのかもしれません。

仮に、電子書籍というハードルが高い物を、楽天市場という強力なプラットフォームを使って多くの人に使ってもらいたいという目論見の末にデザインされた端末であるならば、その点は個人的に評価したいところ。

本体下部・中央の穴はリセット穴

ちなみに、楽天kobo Touchは、楽天が2011年に買収したカナダ企業Koboが海外でリリースしていたものを楽天仕様にしたもの。物理キー周りの評判はお墨付きで、「ホームボタン」「電源ボタン」の双方に不満はありません。

1024×768ドット表示の機種と比較するとやや粗さが目立つ
通常視聴距離では粗さはまったく目立たない

Credit:CUTEG / ENTERBRAIN, INC.

ディスプレイは6インチで800×600ドット表示に対応。約185gという本体は軽い部類の端末です。ただし、仰向けになりながら両手持ちするのはちょっとキツイ。大抵の文庫本と重さは変わらないですが、紙本のような “しなり” が存在しないことが影響しているようです。やはり、ソファーや椅子・床に腰を据えてじっくり読みたいところ。

楽天kobo Touchで本を読み始めて1か月ちょっと。何となく感じたことは、「ガジェット」というよりも「紙本」に近いのではないかということです。紛れもない電子機器なのですが、それを感じさせません。女性のバッグに入っていても違和感はありませんし、電車内で読んでいる姿を見ても電子機器を操作しているようには見えません。外観から漂う “電子機器臭さ” を排除したのは評価できます。

アクティベーションは無線LANにも対応

新たにアップデート追加された「無線LANアクティベーション機能」について書きたかったのですが、発表が行われる前にアクティベートをしてました。

コンテンツ管理ソフトウェアで同期を行う

発売当初はPCと端末をUSBケーブルで接続し、さらに専用ソフトウェアをインストールした上でアクティベートを行うという作業が必要でした。言うならば、iTunesに繋ぐ必要があった昔のiPhoneのようなものです。今では無線LAN経由で、端末単体のアクティベートに対応しています。

アクティベートが完了すると、端末アップデートが行われます。

アップデート後にリリースノートが表示される仕様は変わらず
エンジニア職の方には拒否反応も!?

さて、このアクティベートプロセスにおいて、発売初期にサーバー混雑などのトラブルが発生しました。その上、無線LAN環境やPCが必要であることを知らなかったユーザーが存在したことで混乱は拡大しました。

裾野を広げる試みの結果、機械に強くないユーザー層を取り込むことに成功したようですが、負の側面も出てしまったようです。ユーザーは千差万別であり、どこを限界点としてサービスを提供するかの判断は極めて重要な部分です。

ここでいう限界点とは、「マウスも操作出来ない人」「ネット検索なら出来る人」「無線LANを自分で設定できる人」など、いわゆる “デジタルスキルの差” において、下限をどこに設定するかという意味です。サービスや商品を構想する段階でこれらを熟慮しないと、思わぬ評価が下ることになります。

kobo Touchのように、「PCのユーザー名に日本語を使っている人」などを門前払いしてしまうと、大多数のユーザーから批判的な評価を受けることは間違いありません。普段PCを使いこなしているユーザーにとっては常識であることも、一般的には非常識であることが多いものです。コンシューマ製品の難しいところはそこで、限界点の見極めがメーカー側の腕の見せ所でもあります。

また、限界点を超えてしまったユーザーに対しても手厚くフォローすることが大切であり、その点は楽天側もその対応ができていたようです。楽天が行った電話サポートは好例でしょう。

しかし、その対応の流れをメディアに説明した際の言葉が、日本においては受け入れられにくい言葉だったことが裏目に出てしまったようです。

例えば「問題が生じてるのは全ユーザーの○%程度」という旨コメント。これは北米地域では良くある言い回しです。ただ北米地域で受け入れられるこの言い回しも、日本においては逆効果以外の何物でもありません。

せっかく、楽天市場というプラットフォームでデジタルスキルの低い層まで取り込むことができたのだから、それをチャンスとして活かせば市場規模は拡大していったはずです。どうみてもチャンスでした。今後、これらのユーザーを丁寧に対応をし続けることで、AmazonやGoogleが開拓できないような「初心者ユーザー」の取り込みに成功できると思いますので、今後に期待したいと思います。

独特な書籍リスト表示

電子書籍端末といえば仮想本棚スタイルによるリスト表示が一般的ですが、kobo Touchは独特の表示方法が採用されています。最後に読んだ本が一番大きく、古くなるほど小さくなっていきます。本のサムネイルを並べて楽しむというよりは、利便性を考慮したインタフェースです。

ちなみに、収録済みの青空文庫がサムネイルからタイトルを判別できるようになりました。初期の報道では一様に「青空文庫」としか表示されていないので何の本なのか分からないとの指摘がありましたが、現時点では改善されています。

個人的に、本の醍醐味は「整理」にもあると思いますので、よくある本棚スタイルが欲しいところ。好きな本の表紙が仮想本棚にならぶ姿は楽しいものです。電子ペーパーの解像度・スペックの関係で難しいとは思いますが、やはり欲しくなってしまいます。

手元にモノが存在しない電子書籍にとって、所有欲をいかに満たすかという点を大切にしなければなりません。満たされる所有欲がさらなる購買意欲を引き出すことになり、結果的に安定したプラットフォーム運営が実現できます。安定したプラットフォームは「持続」をもたらしますので、ユーザーにとってもメリットがあることです。何せ、すぐに終わってしまうサービスにお金をかけるのはリスクの高い行為ですので。

やっぱりE Inkは良い

それにしても、E Ink(電子インク)はやっぱり良いものです。液晶ディスプレイと違ってバックライトで照らさないために目の疲れが軽減され、視認性が格段に向上します。

晴天・直射日光下でも視認性に優れる

E Inkの特徴であるリフレッシュ時の暗転は、もちろん存在します。応答性は可もなく不可もなく。kobo Touchよりもページ送りが速い機種は存在しますが、初めて使うユーザーが苦になる遅さではありません。もちろん、ページ送りが速い機種を多数触っている “高レベルユーザー” からすると不満があると思いますが、kobo Touchの値段とターゲット層を考慮すれば妥当なところです。

 

液晶パネルを使うNexus 7との比較、その違いは一目瞭然 / 天地逆
(Nexus 7に映る指紋のようなものは、雲が反射したものです)

もちろん、屋外での視認性もバッチリ。量産化された液晶や有機ELパネルが到底たどり着けないレベルと言って良いでしょう。暑かった夏もようやく落ち着きをみせ、公園で読書が出来る季節になりました。E Inkを採用した端末ならばそのような読書スタイルにも対応できます。

先に書きましたが、kobo Touchの重さは約185グラム。ちょっとした外出の際に持ち運ぶのも苦にならないので、駅での待ち時間や休憩の合間にサッと取り出してすぐ読むことができます。この点は非常に気に入りました。

巻数が分からない問題は改善

サービス開始初期に、ストアに並ぶ書籍はタイトルのみと表示になり、巻数は表示されないという不便さが話題になりました。例えば「○○○ 1巻」「○○○ 2巻」という漫画本があったとすると、ストア上では一律「○○○」の部分しか表示されないので、何巻目にあたるのか分からないといった状況でした。

今現在ではそれらの問題も解決しており、「○○○ 1巻」「○○○ 2巻」といった具合にタイトルから巻数を知ることができます。

ストアの検索性はまだ難あり

初期に指摘されていた、ストアにおける検索性や探索のしやすさについては、未だに問題があるようです。

カテゴリも曖昧な表現で、探したい本がどのカテゴリに属するのか悩んでしまいます。このようなサイトにおいて重要なのは、明確に買う本が決まっていないユーザーに対して「検索させない」か「検索させて9割以上の割合でヒットさせる」という二択の環境を提供することです。残念ながら、楽天koboはそのどちらも提供できていないようです。

仮に、楽天koboの取扱い書籍数が数千万冊あるのならば、「検索させて9割以上の割合でヒットさせる」という選択肢が実現可能ですが、現在の書籍数では「検索させない」という方向に出来る限りユーザーを仕向けなければなりません。

なぜなら、検索した結果が「0件」であると、「書籍が少ない・残念」という評価に直結してしまうからです。それなら、検索させる前にユーザーが欲しがるような書籍を提案してしまうのがベストなのです。人気の書籍が見える形で陳列されているならば「このストアは魅力的な本が多い」という評価を下すことになります。

現実の書店でいうならば、「本屋にぶらりと立ち寄った客が、平台に置かれている書籍をカバーやタイトルから選んで買う」というスタイルのようなもの。そんなぶらりと立ち寄った客であっても、自分の好きなジャンルのコーナーに向かうわけです。男性客が女性のファッション雑誌コーナーに向かうことはありませんし、漫画本が欲しいユーザーがビジネス書コーナーに行かないのと同じです。

つまり、現実の書店においても、ある程度のジャンルで分けて、その中でおすすめの本を提案したり、売れ筋の本を並べているわけです。しかし、楽天koboストアではそのような工夫が殆どなされていません。

例えば、「ココロコネクト」という漫画があります。楽天koboストアにおけるこの本のカテゴリーは「コミック・グラフィックノベル>漫画」なのですが、かなり乱暴というか、カテゴリの役割を果たしていません。もし現実の書店で、無秩序に陳列された「漫画」というコーナーの中から本を探せと言われたらば、絶望してしまうことでしょう。

でも実際の書店では、「少年コミック」「少女コミック」「青年コミック」などといったカテゴリで大きく分けられた後に、出版社などで分類され、さらに名前の順で陳列されています。だから比較的探しやすいのです。さらに平台の部分には人気の漫画をもってきたり、「夏アニメ特集」といった書店独自の工夫で見つけやすさや話題性を演出します。

確かに特集はあるが…見つけにくい場所にある

楽天koboストアも「アニメ化された書籍」といった紹介があるのですが、思考の流れを分断していきなりトップページに表示されるので情報が把握し辛くなっています。『なんだ入口に置いてあったのか!』という、まさにあの状況が起きているのです。

客が本を探す時にどのような思考・行動を行うのか再検討した上で、サイトの構造やカテゴリーの見直しを行う必要があるかと思います。まずは「正しくカテゴライズする」「小分類を増やす」といった施策が大前提となることでしょう。

決済は完璧・シームレス

楽天IDで決済できる点はやっぱり便利です。すでに楽天IDを所有しているユーザーがこの端末を購入するわけですから、この点はkoboの大きな強み。

端末から購入する際も楽天スーパーポイントの使用が可能

もちろん、楽天スーパーポイントの使用も可能です。個人的に、5000円の買い物するときに320ポイント(1ポイント1円)を使っても大して喜びは無いのですが、420円の本を買うときに320ポイント使うと得した気分になります。楽天を頻繁に利用する方は、ポイントの使い道を電子書籍の方に回すと満足感が高いかもしれません。個人差はあると思いますが。

調べていないので法規制の問題で実現不可能なのか分かりませんが、電子書籍に使う場合「1.1倍になる」などのキャンペーンがあると嬉しいと思いました。

自炊などについて

ガジェット速報のポリシー上、JailBreakやroot化の話題は一切扱わないので、軽く触れる程度にしておきますが、kobo Touch用にカスタムファームを配布している有志のユーザーが存在します。

そのままのkobo Touchでは自炊用途であまり使い物にならないのですが、このカスタムファームを導入すると全く別のものに生まれ変わります。7,980円の価格でE Ink端末が手に入るのはある種魅力的です。楽天IDのランクによる割引販売なども実施されているので、実際はもっと安くなることも。

本体左側面にはmicroSDスロットを備える

2chのカスタムファームスレッドも盛り上がりを見せており、ガジェットをカスタマイズして楽しむ方にはなかなか良い端末になっています。ただし保証等が受けられなくなるので注意が必要です。

総書籍数に話題をさらわれたのが残念…チャレンジを見守る

楽天koboといえば「総書籍数」の話題ばかりになってしまいました。個人的には、この話題に引き込まれる前に脱却を図ったほうが良かったのではないかと思います。

6万冊になろうが30万冊になろうが、それは単なる「豊富なイメージ」を作る効果でしかなくて、ユーザーが好きな本・探している本がなければ100万冊あっても意味をなさないのです。もちろん冊数が増えればユーザーの欲求に対するヒット率は向上しますが、単なる数字増やしゲームに意味はありません。それよりも、陳列を改善して興味のある本に出合いやすい環境を作った方がメリットは大きいのではないでしょうか。

話は変わりますが、つい先日、楽天の電子書籍サービス「楽天Raboo」の終了がアナウンスされ、既に購入したコンテンツは引き継ぎが不可能であることが発表されました。本来であれば可能な限り引き継ぎさせ、配信プラットフォームに対する信頼感を集めなければならないところでしたが、全く逆の対応をしてしまったようです。もちろん優遇措置は取られていますが、購入したコンテンツが生き続けることの方が何倍も大切です。

確かに、楽天kobo Touchを試みたチャレンジは素晴らしいです。安い端末を提供して裾野を広げ、多くの人に日本発の電子書籍プラットフォームを利用してもらうという意気込みは評価したいもの。それだけに、フォローしなければならない所をフォローしなかったり、数字競争に興じたりと、注力すべき点が若干ズレてしまっているのが残念でなりません。

電子書籍サービスとは売り切り型の商品販売ではなく、ユーザーの財産を預かる「貸金庫」のような安心感も提供しなければなりません。ユーザーがお金を払った電子コンテンツを預かるからこそ、今まで以上にユーザー視点で事業運営を行わなければ評価は得られないことでしょう。

電子書籍事業と全く関係のない事業であってもユーザーの信頼を損ねるような対応をすれば、電子書籍配信プラットフォームの信頼まで損ねてしまうという、非常にデリケートな事業なのです。つまり、企業全体の姿勢が問われています。

サービス開始から約2か月。まだ始まったばかりなので、このあたりで一新する方向も悪くないはず。ストアの陳列改善、冊数ゲームからの脱却など。日本企業だからこそできるサービス品質で、プラットフォーム全体の安心感・信頼度を高めていくことが楽天kobo成功のカギとなることでしょう。

コンテンツの低価格化が難しい電子書籍だからこそ、数字として見えない部分を大切にしなければなりません。kobo端末の新型も発表されていますし、今後の動きを管理人は見守りたいと思います。

2012/09/29 17:54 JST/GMT+9
初稿時、本体重量に誤りがありました。それに合わせて一部文章も差し替えました。
お詫び致しますと共に訂正いたします。

また、スリープ・電源OFF時の表紙が表示される件は、設定でOFFにできることが判明しました。
それに合わせて当該項目を削除しています。

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