ソーシャルゲームに未来はあるか。 ―失速するビジネスモデルと新たな模索

「任天堂の倒し方、知らないでしょ?オレらはもう知ってますよ」……ネット上でゲームやIT関連の情報を集めている人達にとっては、もはやこの言葉の意味や誰が発したかなど、説明は不要かもしれません。

これはグリーがコンシューマゲーム(家庭用ゲーム)を作っていた人を中途採用する際に、その面接官が発した言葉だとされています。ある人はこの言葉をグリーの成長の証だと言い、ある人はグリーの増長だと揶揄しました。しかし、実際にグリーをはじめとしたソーシャルゲーム市場がそれだけの急成長を遂げて来たことは事実です。この言葉の真偽はともかく、それを真実だと思わせるようなソーシャルゲーム市場の成長と増長を人々はそこに見た訳です。

そのソーシャルゲーム市場が今、岐路に立たされています。

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ソーシャルゲームと重課金問題

矢野経済研究所による2013年度のソーシャルゲームの国内市場の動向では、2012年度との見込み比で約10%増にとどまり、成長ペースに急ブレーキが掛かる形となると発表しました。これまでの成長指数を見ても、2010年度では約3.8倍、2011年度では約2倍、2012年度見込みで約37%増と、年を追うごとに成長率は伸びが鈍化し、ついに今年度は横ばいに近い低調な伸びになると予想されたのです。

この急激な失速の原因は様々に考えられますが、消費者の射幸心を煽り過度の課金を産む温床となっていた「コンプガチャ」の存在や、それが規制された後に登場した「パッケージガチャ」による同様の重課金は、一時的な収益の急増こそ生みましたが、それほどの課金を長期間続けられる人は極小数であり、結果としてユーザー側に飽きられる要因ともなったのではないでしょうか。

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またグリーが起こした未成年者への超過課金問題なども、ソーシャルゲームの重課金問題が社会現象化していたことを裏付ける決定打になったのは否めません。未成年者への超過課金問題についてはガジェット速報でも何度かお伝えしてきましたが、運営側による杜撰な管理体制や隠蔽体質などが明らかになるにつれ、ソーシャルゲームそのものへの風当たりもさらに強まったように感じられます。

海外に活路を模索するソーシャルゲーム業界

国内での失速を感じ取ったからなのか、それとも純粋に市場の拡大を狙ったのか、ソーシャルゲーム業界の関心は現在もっぱら海外へと向けられつつあります。

モバゲーを運営するDeNAは2011年7月に英語版と中国語版のソーシャルゲームの展開を開始、2012年2月には韓国語版も開始しました。またグリーも2012年6月にアメリカ・ロサンゼルスで開催されたゲーム見本市「E3」に初参加。7月にはカナダの子会社設立を発表し、韓国への本格参入も果たしました。

しかし、その海外展開も業績面では未だ不透明なままです。DeNAは海外事業の黒字化が「1~3月期より先」と話し、グリーもまた「今年度中の黒字化は見えていない」と説明するなど、思うように収益に繋げられていない実状があります。

矢野経済研究所では「文化や言語、風習の違いを理解し、コンテンツをいかに現地化できるかが重要だ」と指摘していますが、そもそも携帯電話でゲームを遊ぶという習慣が薄い海外で日本のビジネスモデルを展開するのには限界があるようにも思え、各社の焦りも見え始めているように思われます。

「パズドラ」の快進撃に見るソーシャルゲームの変革

そのようなソーシャルゲーム大手各社の苦境の中で、大ヒットを飛ばし続けている企業があります。ガンホーです。

これまでガンホーは主にPC向けのオンラインゲームやブラウザゲームなどを主体に運営してきましたが、「パズル&ドラゴンズ」(略称:パズドラ)のヒットにより、にわかにソーシャルゲーム業界の風雲児となりました。パズドラは2012年の2月にスタートしたソーシャルゲームですが、そのゲーム性や過度の課金を必要としないプレイスタイルが若年層を中心に評価され、口コミによって広がっていった稀なゲームです。丁度1年が経った現在では約800万人のユーザーが遊び、2週間ごとに100万人ずつユーザーを増やし続けているモンスターゲームと化しています。

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グリーやモバゲーがヒット作を生み出せずに苦しむ中で、何故これほどまでの大ヒットゲームを生み出せたのか。ガンホーの山本氏は昨年9月に開催された東京ゲームショー2012でのパネルディスカッションにおいて、自社のビジネスモデルを「北風と太陽」の童話に例え、「ポカポカ運営」と呼びました。

山本氏はディスカッションの中で「多くの運営がユーザーに無理な課金を押し付けていないか」と問い、ソーシャルゲームで常態化しつつあった重課金に対して強い懸念を示し、そのような課金を強制する「北風運営」に対して、ユーザーに優しい「ポカポカ運営」を提唱しました。

具体的には、ゲームの根幹となる部分に課金を必要としないようにし、無課金でもずっと遊べるようなゲームシステムを構築するという点。そしてARPU(ユーザー一人当たりの売り上げ)を意識的に低く抑えることでプレイヤーのゲーム継続率を上げ、長期的なユーザーの定着化と口コミによるユーザー層の拡大が結果として収益全体を底上げするという独自のビジネスモデルを提案しています。

そしてこの施策は、現在のところ成功を収めていると言えるでしょう。ユーザーに過度の課金を強いることで収益を上げてきたグリーやモバゲーとはまだまだ事業規模も企業体力も違いますが、少なくともユーザーに疲弊感を与えたり社会問題化するようなビジネスモデルにはなっていません。

ゲーム内課金というビジネスモデルの転換期

ゲーム内課金(アイテム課金)の歴史は意外と古く、その起源は2001年に韓国の企業がPC向けオンラインゲームのユーザー離れを防ぐ目的で導入したのが始まりとされています。

以来ゲーム内課金のビジネスモデルはコンシューマゲーム機がネットと繋がるようになるにつれコンシューマゲーム業界にも浸透し始め、モバイルゲームが流行し始めるとキャリア決済という非常に簡便な決済方法との相性の良さもあり、爆発的に広まりました。その流れにうまく乗ったのが現在のグリーやモバゲーだと言っても過言ではありません。

しかし、その課金システムは暴走とも言える過度の搾取へと変遷し、コンプガチャなどの社会問題を生み出しました。

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ソーシャルゲームにおける課金システムは、ある側面で言えば手のひらの中にゲームセンターがあるような状況だと言えます。ゲームセンターはその施設へと足を運び、ゲーム機へ100円を投入することでゲームが遊べますが、ソーシャルゲームはそのゲームセンターが携帯電話の中にあるような状態です。いつでもどこでも100円を投入できるという環境は、運営する側からすればこの上ない最高の環境ですが、消費者の立場としては非常に危険極まりない状況でしょう。

ましてやそこで扱われるお金は現実の紙幣や硬貨ではなく、デジタル化された「クレジット」です。数字のみによる通貨の利用は「お金を消費している」という感覚を薄れさせ、通貨が持つ価値を深く認識させないままに消費させます。この感覚の希薄性が金銭感覚に敏感ではない若年層には特に問題であり、問題の複雑さをさらに高めているように思われます。

ソーシャルゲーム市場の伸びの鈍化などを見るに、人々はそろそろゲーム内課金に疲弊し始めているのかもしれません。北風運営によってマントを吹き飛ばされた人々は、その寒さに耐えかね始めています。その一方で、ガンホーのようなポカポカ運営には一定の健全性が保たれており、マントを脱いだ人々もストレス無くゲームを楽しんでいます。

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世の中にビデオゲームが登場してまだ半世紀も経っていません。家庭用ゲームやPC向けゲームなどは文化として一定の認識を得るまでになりましたが、ソーシャルゲームに目を向けてみた時、果たしてそれは社会的許容と認知を得ていると言えるでしょうか。

ゲームを単なる儲けの道具としてのみ考えるのなら、そういった市場もまた認められるのかもしれません。が、もしその市場を1つの文化として根付かせ、人々の理解を得たいのなら、現在のような強引なビジネスモデルは転換すべき時期に来ていると思われます。

果たしてグリーやモバゲーに変化の時は訪れるのでしょうか。せっかく花開いたモバイルゲーム市場を、重課金というビジネスモデルによって瓦解させてしまうことは、ゲーム全般を愛し、文化として定着させたいと願っている筆者としても非常に心苦しい思いがします。

ゲームを楽しむプレイヤーにとって、ソーシャルゲーム業界が任天堂を倒す方法を知っているかどうかなど、どうでも良いことなのです。むしろ任天堂を倒すのではなく、共にゲームを育てていく方法を知っているかどうかを知りたい。健全で長期的な視野を持ったビジネスモデルへの転換と改革を心から願うばかりです。

[Yahoo!ニュースBUSINESS]
[GameBusiness.jp]

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