マイコミジャーナルは10日、慶応大学の柳町教授の解説として、サムスンに対する韓国国内の反発が強まってきていると伝えています。

日本国内ではスマートフォンや液晶モニタなどでしか目にする機会のない同社のブランドですが、世界市場においては、白物家電や液晶テレビ・調理機器、果ては造船や建設業に至るまで、多岐にわたった事業を展開しています。 

「Galaxy」シリーズで世界のスマホ市場を牽引し、純利益でも毎年増加の一途を辿るサムスン。今回は、日本であまり表立って報道されることの少ないサムスンの「影」について、個人的な経験も踏まえて書いてみたいと思います。

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サムスン電子の韓国・水原(スウォン)事業所。
研究開発の国内リソースの大部分はここに集約されている。 

副社長の自殺 ―功労者でさえも「使い捨て」にする土壌

日本でも「技術者を使い捨てにしている」などと揶揄される事の多いサムスンですが、この事を象徴するような事件が3年前に起こっています。2010年、サムスンの半導体事業史上最大の功労者とされたイ副社長は自宅から投身自殺を計り、51歳で亡くなりました。

イ副社長は米スタンフォード大で博士号を取得した半導体の専門家で、2006年にはフラッシュメモリーの量産行程における歩留まりを大幅改善する技術の開発により半導体事業に大きく貢献したとして、サムスングループ全体で最高のエンジニアに送られる「サムスンフェロー」を受賞しています。

イ氏の当時の年俸は推定10億ウォン(約8千万円)で、ストック・オプションも含めると数億円にのぼる年収を手にしていたと言われており、名実ともに韓国人技術者の「憧れの的」でした。しかし、2009年から2010年にかけてシステムLSI工場の工場長に「降格」するとの辞令を受け、その事が原因でうつ病を発症していていたとのことです。

役員のみならず、サムスン関係者の自殺は国内外で定期的に報道されており、同社がコア・コンピタンスとして掲げる「人材第一」とは明らかに異なる職場環境の実態が垣間見ることができます。

白血病訴訟 ―たび重なる健康被害の報告

今月6日、韓国ではファン・ユミ氏の6周忌が営まれました。彼女はサムスンの半導体工場における健康被害の実態を最初に告発した女性で、白血病により、2007年に23歳で亡くなっています。

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(注釈:写真はhttp://www.newscham.net/news/view.php?board=news&nid=69568より引用)

同社の製造ラインでは、当時、半導体の洗浄にベンゼンを使用していました(現在は不明)。このベンゼン、身体に入ると肝臓でフェノールに酸化され、さらにこのうちの一部が骨髄内でキノン類に変換されます。このキノンは骨髄の造血幹細胞のDNA及びRNAの合成を阻害し、結果として白血病の誘発要因になると言われています。

一般的に、白血病の発病確率は10万人あたり6~8人程度と言われていますが、この十年余の間に、サムスンの韓国国内の半導体ラインでは68人が白血病により亡くなっています。これは、期間中にラインで働いていた延べ人数(数千人単位)と比較すると、明らかに異常な数値であることがわかります。

この問題について長らく沈黙を続けていた同社ですが、反発的な世論の高まりを受けて今年1月にようやく公式的な対話の姿勢を見せており、今後の経過が注目されています。

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人材の非定着化

元々、サムスン電子やサムスン電機など系列会社には毎年2万人以上の、日本でいうところの東大や京大をはじめとする一流大学を卒業した新入社員が入社しますが、そのうち3割は5年以内に辞めていく傾向がありました。

これは、入社から4・5年以内に最初の登竜門である「代理(日本でいうところの係長相当)」に昇進出来るか否かで出世レースに大きな差がつくためで、一定期間以内に昇進できなかった人は会社の中に居づらくなり、結果的に職を辞することになるというものです。

しかしながら、最近では出世レースの脱落者のみならず、優秀な人材までもが短期間で辞めていくケースが見られるようになってきました。

ごく最近まで韓国は、「一流大学を出て、サムスンに入社する」事が人生における成功の象徴となっていました。しかし、前述したような功労者の自殺や度重なる健康被害の報道などを受け、最近の若者達の中には熾烈な出世競争に価値を見いだせない社員が徐々に増えてきており、サムスンで仕事の基礎やノウハウを習得した後に他の企業へ移籍するといったケースが増えてきています。

優秀な技術者や研究者を世界中で獲得しているサムスンですが、社風に韓国独特の儒教文化が強く根づいていることもあり、専務以上の重役クラスは未だにほとんどが韓国人で構成されています。つまり、韓国国内の優秀人材の確保は次代のトップ育成という点でも重要な意味があるのですが、今後は買い手市場一辺倒という訳にはいかなくなってくるかもしれません。

samsungサムスンは現在、韓国GDPの実に20%超という売上高をあげるまでに急成長しています。日本を代表する企業であるトヨタのGDP比でさえ3.9%程度である事を考えると、いかに韓国の経済が偏った構造になっているかがわかります。

今や韓国随一の 巨大企業グループに成長したサムスンですが、韓国国内で同社に社員として雇用されるのはトップ1%以下のエリート層のみで、一般市民はほとんどその恩恵に預かることはできません。加えて、近年では前述したような人材軽視・健康被害といった面が浮き彫りになってきており、今やサムスンに対する市民感情は敵対心に近いものにまで発展してきています。

もちろんこのような事があるからといってサムスン製品の価値が減じられるものではありませんが、急伸する同社の業績の裏には、こういった現実が存在していることも事実なのです。我が世の春を謳歌するサムスン、その前途は必ずしも輝かしいものばかりではないようです。 

[マイコミジャーナル]
[参考:非メモリへの異動は左遷? Samsung副社長自殺の真相]
[参考:レイバーネット「サムスンとの闘い」]