「殺菌イオン」の効果とは?是非をめぐって紛糾する議論

今月5日付の日本経済新聞に、”「イオン」は本当に殺菌に効くか、渦巻く疑問と反論” という記事が掲載されています。

いわゆる「イオン殺菌」をうたう製品を巡っては、昨年11月に、シャープのプラズマクラスター搭載サイクロン掃除機が消費者庁の措置命令を受けていたり、独自に検証を行なっても訴求されている効果は確認できなかったとする第三者機関の論文が学会で表彰されたりといったことがありました。

また身近な事例として、例えば冷蔵庫に関しては、実際の使用シーンでは保存する食品にラップをかけていたり保存バッグに入れていたりすることから、いわゆる「イオン」が発生していても食品などに付着している菌に作用させることは難しいのではないかといった、製品としての基本的な部分での指摘もあります。

このように、なにかと向かい風な状況が続く「イオン放出」タイプの製品。本記事では、個人的な経験も踏まえつつ、日本経済新聞電子版とは異なる視点で色々と書いてみようと思います。

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ヒドロキシラジカル(OHラジカル)とは

プラズマクラスターやナノイーなどのいわゆる「イオン系」製品のカタログやウェブサイトでは、”ヒドロキシ(OH)ラジカル” という単語を目にすることがあります。このOHラジカルというのは、酸素分子(O)と水素分子(H)が1つずつ結合した分子種で、仲間はずれになった「ラジカル電子」と呼ばれる電子を持っているのが特徴です。

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ラジカル電子は高いエネルギー状態にあることから、周囲の物質と見境なく反応する性質があります。この性質を利用することで細菌やウイルスの細胞分子を破壊して殺菌を実現するというのが、プラズマクラスターやナノイーの基本原理になります(技術によって反応経路など細かい部分が若干異なりますが、大本は一緒です)。

ここで一つ触れておきたいこととして、このOHラジカルは非常に反応性が高いために安定して存在していられるのはせいぜい千分の一秒程度であるということがあります。

物理的なスケールについて

大腸菌や前述のOHラジカルは、普段の生活でそのサイズを意識するようなことがないため、反応モデルのスケールについて具体的なイメージがつかみにくいかと思います。そこで、それぞれの大きさを簡単に比較してみます。

殺菌試験などで頻繁に用いられる細菌である大腸菌はおよそ1μm(1mmの千分の一)で、対するOHラジカルはおおよそ0.0001μmというスケールになります。これに相当するイメージとして何か良いのがないかと探してみたのですが、身近なところではスペースシャトルとBB弾という比較がちょうどしっくりくるかもしれません。

分子種自体に飛行能力がなく、ファンから発生する気流にのってターゲットまで運ばれるといったことを考慮すると、ヒドロキシラジカルで大腸菌を攻撃するというモデルは、BB弾をスペースシャトルに向かって手で投げつけているようなイメージに近いかもしれません。

実際には大腸菌以外にも様々な菌を用いた試験が行われていますが、スケールの差という意味では、BB弾がビー玉になることはあっても野球ボールになることは有り得ないと考えてよいかと思います。

図3

※あくまでイメージです

何が問題なのか

以上のような事柄を踏まえた上で、例としてプラズマクラスターを搭載した冷蔵庫について見てみましょう。

例えばシャープのプラズマクラスター搭載冷蔵庫のウェブサイトを見てみると、「付着菌を除菌 」と大きな文字で訴求されていますが、その下に小さな文字で「100Lのボックス内での実験結果、実使用空間での実証結果ではありません。」という注釈を見つけることができます。

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シャープ公式ウェブサイトより引用

これを言い換えると、実際に冷蔵庫の中で試験を行った結果を載せているのではなく、あくまで単純なボックス容器の中、(おそらく)室温環境下で試験を行ったにすぎないということになります。

当り前のことですが、設定温度が室温である冷蔵庫など存在しませんし、庫内には棚やドアポケットといった冷蔵庫独特の構造があります。使用時には食品類や飲み物のボトルなどがいっぱいに詰まっているでしょうし、不定期にドアの開け閉めが行われるなど、内部の環境は複雑に変化することが想定されます。そして、シャープはこのような実環境を想定した実験データを一切公表していません。

これは言い換えると、単純化したボックス試験で結果が出ている事から実際の製品でも「恐らく大丈夫だろう」程度の認識で殺菌性能を訴求していることになります。

もちろん、これはプラズマクラスターや冷蔵庫に限った話ではなく、パナソニックのナノイーや東芝のピコイオン、それらを搭載した洗濯機やエアコンについても全く同様のことが言えます。

苦心するメーカー

ここまで色々と疑問符がついてきている状況で、なぜメーカーは実証試験を行ってそのデータを発表しようとはしないのでしょうか。答えは非常に単純で、実使用環境で効果があることを示すデータがとれていないからです。

当然、メーカー側も多くの場合は実際にやってはみたものの、ボックス試験と同等の結果を得られないためにデータを表に出せないというのが事情があります。私も実際にこの手の製品の殺菌性能試験を行った経験がありますが、メーカーが提示している試験条件でさえ結果がバラつくということがよくありました(具体的には、寒天培地のブイヨン濃度を0.1%変えただけで殺菌率が10倍変わったケースなど)。

そもそも、いかに「攻撃力が高い」ヒドロキシラジカルとはいえ、スペースシャトルに寿命が千分の一秒以下のBB弾を延々と投げつけることで果たして訴求されているほどの効果が出るものなのか、疑問に感じる方もいらっしゃるかと思います。日経の記事では、OHラジカルと同時に発生しているオゾンによる効果であると指摘する論文を紹介していますが、この点についてメーカー側は、殺菌ができるほどの濃度のオゾンは発生していないとして否定的な見解を示しています。

細菌へのダメージを個体単位で確認するには電子顕微鏡を用いなければ確認が難しく、また培地を使用した試験も専用の環境が必要になることから、消費者自身が効果を確認することはほとんど不可能と言えます(※)。なればこそ、技術を提供する企業には十分な説明が求められるのですが、現状公開されている試験データでは説明責任を果たしているとは思えません。
(※注釈:市販の製品を使用することで簡易的なボックス試験を行うことはできますので、将来的にはガジェ速独自のテスト評価なども行なってゆきたいと考えています)

私も個人的にプラズマクラスターを愛用しているだけに、なおさらメーカーには消費者の期待を裏切るようなことはしてほしくないと考えています。今後、実使用環境を想定した条件下で適正な試験を行ない、説得力のあるデータを提示してくれることに期待したいところです。

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