量子情報のR/Wを実証 量子計算の精度向上に期待 ―豪研究チーム【想定難易度 Lv.8】

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オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(University of New South Wales, UNSW)の研究チームがこの度、核磁気共鳴の原理を利用することで、シリコンの原子核スピンへの量子情報の書き込み・読み出しに成功しました。この研究成果は4月18日付の科学誌「Nature(ネイチャー)」に掲載されています。

核磁気共鳴(NMR)とは

物質を構成する単位として「原子」というものがあるということは多くの人が知るところと思いますが、この原子はさらに「原子核」と「電子」という2つの要素に区分することができます。

原子核は一つの原子に対して一つ存在している粒子で、原子内部の奥深くにあることから、通常は物理的な影響をほとんど受けずに安定した状態を維持しています。これら原子核はそれぞれに固有な核磁気モーメント(核スピン)という物理量をもっていますが、自然な状態ではてんでんばらばらの状態にあります。

ここに外部から強力な磁場をかけると、図のようにエネルギーと核スピンの異なる(ただし両者とも外部磁場に平行)状態に分裂します。

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ここで、分裂後のエネルギー差に相当する電磁波を外部から照射すると、原子核が電磁波のエネルギーを吸収するなどして生じた固有のエネルギースペクトルが観測され、このスペクトルデータを解析することで分子の構造解析をはじめとした化学分析を行うことができます。

今回のUNSWの研究では、単一のシリコン原子に対してこの技術を応用することで、核スピンの状態やエネルギーを制御し、量子ビット(後述)の書き込み・読み出しを実現しています。

量子コンピューターと2012年ノーベル物理学賞

ここで少し話を変えて、量子コンピューターについて簡単に触れておきたいと思います。

現在広く普及しているコンピューターでは、非常に小さなスケールで電気のオン/オフを行ない、それらの情報を集積することで計算を行なっています。このことについて少々専門的な書き方をすると、情報の基本単位である「ビット」の値として “0” もしくは “1” のどちらかを割り当て、これらビット情報を電子回路で処理することで情報のやり取りを行なっています。

一方、量子コンピューターにおいては、情報の基本単位として「量子ビット」を利用しており、個々のビットが “0” の状態と “1” の状態を同時に保持することが可能になります。これにより、従来では考えられなかったレベルの処理速度を実現することが可能になります。

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(注釈:NECウェブサイトより引用)

これまでの研究では、量子ビットとして原子そのものの状態を観測/制御する方法がとられてきていましたが、これらの研究は、外乱の影響を排除するために実験室内の宇宙空間に匹敵するほどの高真空チャンバーの中で検証が進められてきました。

直近では、2012年に米国国立標準技術研究所(NIST)のDavid Wineland氏とコレージュ・ド・フランス(仏国内の最高学府)のSerge Haroche氏が、真空中において単一量子系の測定や操作を可能にするための革新的な実験的手法を構築したとして、ノーベル物理学賞を受賞しています 。

しかし、実際にコンピューターに適用するとなれば、真空下で得られた現象をそのまま使うことはできません。今回発表されたWineland氏らの研究は、まさにこの問題をクリアーするものでした。

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UNSWの研究チームは、前述のNMRの原理を利用することでシリコン原子核を量子ビットとして扱い、実際に情報の読み出し・書き込みすることに成功したとしています。

レポートによると、UNSWが得た実験データは前記のWineland氏らのデータに対して99.8%という正確度を誇っているとのことで、これにより大気圧環境下においても量子ビットの観測及び制御を安定的に行うための基盤を構築したことになります。

なお研究チームによると、今後はより高純度のシリコンを用いることで量子情報の正確度を向上させてゆくとともに、メモリデバイスや論理ゲートなどへの応用検証を進めてゆくとしています。 

普段の生活の中ではなかなか掴みどころのない量子物理学ですが、今回の研究のように実用化に貢献する可能性のある技術も徐々に出始めてきています。現在はまだまだ基礎技術を確立する段階にあり、実際に世の中に出てくるのはまだ何十年も先のことと思われますが、これまで漠然としていたものが徐々に実態を伴ってくる過程というものは、見ていてワクワクしますね。

[Sciencedaily via 海外からの最新科学ニュース]
[Nature: High-fidelity readout and control of a nuclear spin qubit in silicon]
[UNSW: Quantum computing taps nucleus of single atom]

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