Haswellは “失敗作” なのか? ‐炎上騒ぎに見るCPU性能の検証と考察

今月2日、インテルはCoreアーキテクチャの第4世代となる新たなCPUを発売しました。CPUの開発コードネームは「Haswell」(ハスウェル、もしくはハズウェル)。インテルが推し進める「Tick-Tock」(チック・タック)モデルの “Tock” 世代にあたる改良であり、CPUを構成するアーキテクチャが、2世代前のCPUアーキテクチャである「Sandy Bridge」(サンディ・ブリッジ)から刷新された、言わばフルモデルチェンジとなるCPUです(ちなみに “Tick” 世代は製造プロセスのシュリンクが主な内容となります)。

このHaswellをめぐり、発売直後から小さな「炎上騒ぎ」が起こりました。

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Haswellは低性能の失敗作?

事の発端は、ネット上のニュースメディアに掲載されたベンチマークテストの結果などです。Haswellに限らず、PC用のCPUやGPUなどは常に新型が発売されると同時にベンチマークされ、その性能について議論が交わされますが、その結果が読者の予想に反するものであったことが騒動の原因となったのです。

具体的には、Haswellの性能が予想よりも低く、前世代のCPUである「Ivy Bridge」(アイビー・ブリッジ)と比べ、CPUの演算性能そのものは若干の向上を見せたものの、CPUに統合されているGPUが全く奮わず、Ivy Bridge世代の統合GPUとほぼ同じか、わずかに低い性能となっていたのです。

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■「Core i7-4770K」&「Core i5-4670K」レビュー。デスクトップPC向けHaswellはゲームで速いのか(4Gamer.net)

 Haswellの発売日に掲載された上記の記事の反響は小さくなく、「これは失敗作なのでは?」「Ivy Bridge世代を買っておくべきなのか?」といった声があちこちから噴出したのです。

かくいう筆者もこれらの記事を読んだ時点では自分の目を疑ったほどで、そもそもインテルはHaswellの統合GPUの性能を「Ivy Bridge世代と比較して最大2倍に向上させる」と豪語し続け、またアーキテクチャの構造からもそれらの言葉が裏付けられるような強化が見られたことから、ニュースメディア各社もその性能向上を前提とした考察やコラムを、CPU発売前から連載してきました。

では、何故このような「青天の霹靂(へきれき)」となってしまったのでしょうか。実は、そこには大きな誤解と各メディアによる考察不足が潜んでいたのです。

フラッグシップであるはずのCore i7の性能が悪い?

まず、騒ぎの発端となったデスクトップ向けCPUに目を向けてみましょう。各社がベンチマークに使用したCPUはいずれもメインストリームのミドルハイ向けとなるCore i7-4770Kなどで、通常であればPCにある程度精通したヘヴィユーザーや、PC性能に妥協しないコアユーザーがターゲットとなるCPUです。

このCore i7-4770Kをベンチマークに使用することはある意味最も妥当であり、このCPUを指標としてそこから少しずつ性能を下げながら、予算や用途との兼ね合いを考えつつミドルエントリー向けのCore i5、ローエンドのCore i3やCeleronといったCPUを選択していくわけです。

つまり、指標となるべきコンシューマ向けフラッグシップであるCore i7で性能が奮わなかったのだから、炎上騒ぎになっても当たり前だったのです。しかし、そこには大きな見落としがありました。

GPUコアへの誤解と理解不足

Core i7-4770Kに統合されているGPUに目を向けてみると、そこには「Intel HD Graphics 4600」という文字があります。Haswell世代ではCPUアーキテクチャの刷新が行われたと前述しましたが、GPUコアについても大胆な刷新が行われており、ほぼ新規に作り直したといっても過言ではないほどの改良が加えられています。

このIntel HD Graphics 4600の性能が奮わなかったことが問題となったわけですが、実はこのGPUコア、性能が伸びないのは「当然」だったのです。

インテルはHaswellに統合されるGPUについて、当初から5つのレベルを設定していました。最もローエンドとなるGPUコアを「GT1」とし、主に「Pentium」ブランドで販売するローコストCPUなどへ統合して発売する予定でした。(現在Pentiumブランドは途上国などがメインの市場であり、日本国内でPCメーカーが採用することはほぼありません。)GT1は「Intel HD Graphics」とだけネーミングされています。

次にメインストリーム向けとなるのがGT2と呼ばれるレベルのGPU群で、ここにはそれぞれのCPUによって、「Intel HD Graphics 4200」、「Intel HD Graphics 4400」、「Intel HD Graphics 4600」の3種類が用意されています。前述したCore i7-4770Kに統合されているのはこのGT2レベルということになります。

ここで留意しておいてもらいたいのは、このGT2レベルのGPUコアの性能が、前世代のIvy Bridgeに統合されていたGPUコアと同等クラスになるように設定されていたという点です。

そしてその上にはGT3というレベルが存在します。GT3はさらに3つのレベルに分けられており、消費電力15W枠となる低消費電力版GT3と、消費電力28W枠の通常版GT3、そして高速なオンチップDRAM「eDRAM」をグラフィックス処理専用に用意したGT3eというレベルです。15W枠のGT3には「Intel HD Graphics 5000」という名前が付けられ、28W枠のGT3には「Intel Iris Graphics 5100」、GT3eには「Intel Iris Pro Graphics 5200」という名前が付けられました。

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つまり、Haswellには5つのGPUレベルが存在し、そのうち最下位となるGT1は事実上日本では取り扱われない(購入する層がいない)CPUに統合されており、実質的な最下位レベルの統合GPUはGT2ということになるのです。

ここで先ほど書いたことを思い出してもらいたいのですが、GT2レベルのGPUコアとIvy Bridgeに統合されているGPUコアの性能が同等になるように設計されているということは、つまりIvy Bridgeの性能が基準となっており、そこからレベルが上がるほどに性能が引き上げられていく、というステップアップを行っているのがHaswellであるという点に注目してください。

これらのことから分かる事実は、メインストリーム向けの、しかもフラッグシップであるはずのCore i7に統合されているGPUが、実はローエンドクラスだったというちぐはぐさを生んでしまったことと、それを正しく伝えなかったニュースメディアの双方に誤解を招いた原因があったということです。

Haswellのターゲットはデスクトップにあらず

では、何故インテルはこのようなちぐはぐなCPU構成にしてしまったのでしょうか。そこにはHaswellの登場に至った背景が深く関係しています。

デスクトップPCの世界を見てみると、現状ではCPUパワーの過剰さが際立っていることが挙げられます。特にCore i7シリーズはハイエンド指向のユーザーが好んで選ぶCPUであり、その多くはディスクリート(外部)GPUを別途搭載し、さらに強力なPCに仕上げていることが少なくありません。

この場合、CPUに統合された内蔵GPUは完全に無用の長物と化します。むしろそこに強力なGPUコアを積む場合は単純にCPUのコストを引き上げるだけの無駄とも言えるわけで、自作PC派の人々や、最初からサードパーティ製のグラフィックボードを搭載する人にとっては、そういった無駄は出来るだけ少ない方が好ましいのです。

そのため、インテルはデスクトップ向けのCPUについては、Core i7でもGT2レベルのGPUコアしか積まない戦略をとったのです。

主戦場はノートPC市場

一方、ノートPC、とくにウルトラブックをはじめとしたモバイルPCの市場では、CPUや統合GPUの性能向上がひたすらに求められる土壌があります。

デスクトップ向けCPUが現在ではクアッドコアを標準としているのに対し、ノートPC向けではCore i7ブランドでも未だにデュアルコアが主流です。Coreアーキテクチャの世代が進むごとにデスクトップ向けCPUとノートPC向けCPUの性能差は広がるばかりで、CPUパワーに余裕があるデスクトップに対し、ノートPCではまだまだCPUパワーが足りません。

そのため、HaswellではノートPC向けのアーキテクチャの最適化が行われたと考えられており、その証拠としてCPUコア単体での整数演算性能の向上が図られていたり、待機時消費電力が大幅に抑えられていたり、ノートPC向けのHaswellにはミドルエントリー向けのCore i5ブランドでもIntel HD Graphics 5000(15W枠のGT3コア)が搭載されているモデルが存在したりします。

つまり、Haswellは開発当初から伸びしろの大きいノートPC(モバイルPC)市場がターゲットだったのであり、既に性能が飽和状態に突入しつつあるデスクトップ市場については「十分な性能に達した」と判断されていたのです。

Core i7-4770Kでベンチマークすべきではなかった?

ここで振り返りとして、各メディアがベンチマークテストを行ったCore i7-4770Kについて考察してみたいと思います。

このCPUに統合されたGPUコアはGT2レベルであり、その性能がIvy Bridge世代のGPUコアと同等の性能しか発揮できなかったことは、設計ミスでも不具合でもなんでもなく、インテルが当初から予定していた通りの “順当な結果” であったと考えるべきだという話は前述した通りです。

その上で各メディアは、GPUコアにはさらに上位のGT3やGT3eといったレベルが存在し、当初からインテルが謳っていた「GPU性能は最大2倍向上」という言葉は、これら上位レベルのGPUコア、とくに「Iris」(アイリス)のブランド名を冠したGPUコアを指していたものであったことを正しく説明すべきだったのです。

その考察や説明を省いてしまったがために読者は混乱と誤解を招き、「どうしてこうなった」と憤慨するに至ったのです。今回の炎上騒ぎを引き起こした原因はインテルの戦略にもありますが、直接的な原因はメディアによる説明不足の一言に尽きるのです。

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新型MacBook Airはかく語りき

ここで、タイミング良くIntel HD Graphics 5000を搭載したノートPCが登場してきたので、その情報も少し書いておきましょう。そのノートPCの名前は「MacBook Air」シリーズです。

日本時間で本日未明に開催されたアップルのWWDCにて、新型MacBook Airシリーズは発表されました。11インチ液晶モデルと13インチ液晶モデルの2機種が発表され、いずれもCPUにはIntel HD Graphics 5000を搭載したCore i5もしくはCore i7が搭載されます。

この新型MacBook Airに搭載された統合GPUついて、公式サイトでは「新しいIntel HD Graphics 5000プロセッサは、グラフィックパフォーマンスを最大40パーセントもスピードアップ」と掲載しています。これを筆者は非常に妥当で誠実な数字と見ており、GT3レベルのGPUコアであるなら、たとえIrisブランドを冠さない15W枠の低消費電力版であっても、4割程度の性能向上は十分に見込めるだろうと予想しています。

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Haswellは失敗作などではない

以上の検証と考察から、筆者はHaswellの性能について、非常に妥当であり失敗作やクリティカルな不具合のあるCPUではないと判断しました。

ただし事実として、デスクトップPCでディスクリートGPUを搭載せず、CPUとその統合GPUのみで動作するエントリーモデルを選択する際、発売直後で高価なHaswell世代のCPUを搭載したPCと、ステッピング(改良)も進み成熟していて尚且つ価格も安価に落ち着いてきた前世代のIvy BridgeコアのCPUを搭載したPCのどちらを選んだら良いかと聞かれると、個人的には後者の方がコストパフォーマンスは格段に良いと判断せざるを得ません。

今後GT3以上のGPUコアを搭載したCPUがデスクトップ向けにもラインナップされるなら、最新のHaswellアーキテクチャに軍配が上がるかもしれませんが、現状のGT2レベルのGPUコアであれば、敢えて高価な最新CPUに手を出す価値が見出せません。

これらのことから、今年PCを購入したいと考えている方がいたら、ぜひそのCPUに統合されているGPUの名称にも気を配って頂きたいと思います。目安としては、Intel HD Graphics 4600以下であればIvy Bridge世代のPCを購入した方がコストパフォーマンスは良く、Intel HD graphics 5000以上であれば、多少高くとも最新型のPCを購入する価値があると判断して良いと思われます。

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また、PCの形態によっても判断が変わります。例えばソニーが発表したVAIO Pro 11などは、最軽量モデルでは770gと過去に発売したVAIO Xに匹敵する軽さを実現しており、その上でCPUはシングルコアで非力なアーキテクチャだったAtom Zからデュアルコアで強力なCore i5(CTOモデルではCore i7も選択可能)へと大幅に強化されています。

そこに統合されるGPUはIntel HD graphics 4400であり、GT2レベルのGPUコアの中でもさらに中堅の微妙な性能となりますが、しかしやはりVAIO Xに搭載されていたIntel US15Wと比べれば雲泥の差となる性能であり、十分に快適な動作が見込めるものと思われます。

単にGPUコアの良し悪しだけを判断材料とせず、それが搭載されるPCの用途や利便性、可搬性、自分の活用範囲などをしっかりと想定した上で、PCの「端末としての価値」を総合判断して頂きたいと思います。

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