スプリント、クリアワイヤとディッシュを提訴 ―TOBをめぐる三つ巴の争い

米国の携帯電話会社、スプリント・ネクステル(以下、スプリント)は17日、自社が50%以上を出資している子会社、クリアワイヤについて、衛星放送会社、ディッシュ・ネットワーク(以下、ディッシュ)による株式公開買い付け(以下、TOB)に違法性があるとして、デラウェア州の裁判所に両社を提訴しました。


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そもそも、クリアワイヤをTOBで買収しようとしているディッシュがスプリントから訴えられるのは理解できるとして、なぜ子会社であるクリアワイヤまでが提訴される事態となったのでしょうか。事の経緯を時系列で追いながら解説していきます。

後出しジャンケンだったスプリント買収劇

事の発端は昨年10月、日本の通信会社、ソフトバンクがスプリントの買収を発表したことです。201億ドル(約1兆9000億円)での買収はそのまま順調に進むかと思われましたが、米司法省と国土安全省が国家安全保障などの観点から買収計画の調査を行うと発表し、買収計画は一旦中止せざるを得なくなりました。

そこに滑り込むようにしてスプリント買収に名乗りを上げたのがディッシュです。ディッシュはアメリカでも「一番意地悪な会社」「最低の企業」とまで呼ばれるほどの、いわゆる「ブラック企業」であり、創業者で大株主のチャーリー・アーゲン氏の強引な経営手法は、今回のスプリント買収でも如何なく発揮されたというわけです。

本丸が駄目なら堀から埋めろ

ソフトバンクもまた、ディッシュによる「後出しジャンケン」に素直に引き下がるわけにはいきません。ディッシュはソフトバンクの買収予定額を50億ドル(約4700億円)以上も上回る255億ドル(約2兆4100億円)を提示してきましたが、この額についてソフトバンクはスプリントの追加負債によってまかなわれるものだと主張し、ディッシュの提示額は新株発行によって希薄化されるものだと指摘。さらにディッシュの買収資金の全額調達には1年掛かると言われていますが、ソフトバンクは買収資金の全額を調達済みであるとして、自らの優位性と健全性を主張したのです。

こうして両社がスプリント買収ににらみを利かせ続ける中で、ディッシュが次に仕掛けてきたのがクリアワイヤの買収でした。クリアワイヤについては昨年12月にスプリントがその全株を買い取り、完全子会社化することで合意していたのですが、その後1月にディッシュがTOBを提案、クリアワイヤは合意を取り消してしまったのです。

クリアワイヤによる造反とも言える動きの背景には、ディッシュが提示したTOB額があります。スプリントは当初クリアワイヤ株を1株2.97ドル(約280円)で買い取る予定でしたが、そこにディッシュが対抗TOBを提案。それに伴いスプリントも買い取り額を1株3.40ドル(約320円)に引き上げましたが、ディッシュはさらに1ドル高い1株4.40ドル(約420円)でのTOB額を提示してきたため、クリアワイヤの取締役会が設置した特別委員会が買収について検討していたのです。

結果、クリアワイヤの取締役会は提示額の高いディッシュによるTOBを選択し、株主に対してもそのTOBに応じるよう勧告を出しました。ディッシュはスプリント買収について雲行きが怪しくなってきたことを察し、高速通信網とその通信帯域を多く保有するクリアワイヤそのものを買収して、ソフトバンクによるスプリント買収の最大のメリットを削ぐ戦略に出たのです。

クリアワイヤ提訴はギリギリの選択だった

ここでスプリントが出せる選択肢は3つありました。1つはディッシュによるクリアワイヤへの出資を認めることです。前述したようにスプリントはクリアワイヤ株の50%以上を保有しており、ディッシュによるTOBが成功したとしてもクリアワイヤの経営権は維持できます。

ただしここで問題となるのは、ディッシュがTOBを行うことでクリアワイヤの経営判断にディッシュの意見を尊重しなくてはいけなくなり、仮にソフトバンクによるスプリント買収が成功したとしても、スプリントはクリアワイヤの資産である通信帯域と高速通信網を思うように運用できなくなる可能性があることです。

クリアワイヤのTOBは、言ってしまえばディッシュによるスプリント買収のための「脅迫」なのですが、通信事業の要であるクリアワイヤの完全子会社化を阻止されるのは、スプリントとしては最も考えたくないシナリオです。

そこで次に考えられるのは、スプリントによるクリアワイヤ株の買い取り額の積み増しです。しかしこの案も大いにリスクをはらんでおり、ディッシュが提示する1株4.40ドル(約420円)を超える金額に設定した場合、スプリントの負担は一気に増加し、ひいては買収先であるソフトバンクの経営戦略にも多大な影響を与えかねません。

そうした中で最終的に考えられたのが、ディッシュによるTOBを法に訴えて排除するという方法でした。具体的には、ディッシュやソフトバンクによる自社の買収案が進められる中で、クリアワイヤの完全子会社化がTOBの提案によって白紙撤回され、さらにTOB額の積み増しなどによって経営の一本化が不透明となったことで、スプリントとクリアワイヤ両社の企業価値を損ねられたとして訴える戦略に出たのです。

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スプリントは今回の提訴の声明で、ディッシュはスプリントの提案が法的に問題があるとクリアワイヤ株主を繰り返し欺こうとし、スプリントとクリアワイヤの取引を妨害したと主張しています。

スプリントとしては、ディッシュとクリアワイヤが共謀して株主を騙したという構図に持っていくことでディッシュを “悪役” に仕立て、クリアワイヤの完全子会社化を実現させることが目的であり、当のクリアワイヤを提訴したことはギリギリの選択だったのです。

スプリントに勝算はあるか

この提訴によってスプリント買収の動きも長期化せざるを得ない状況となり、ますますソフトバンクによる買収は不透明となりました。最終的に買収に至ったとしても、スプリントそのものの経営の建て直しやソフトバンクの経営戦略に多大な影響を与えることは確実であり、場合によっては商機を逸する恐れすらあります。

通信業界の動きはほかの業界と比べても著しく速く、特に業績の悪化が激しいスプリントにとっては一刻を争う状況です。高速通信網を抱えるクリアワイヤの完全子会社化はスプリントの復活には必須であり、仮にそれが成し遂げられなかった場合、ソフトバンクが買収を断念する可能性も出てきます。

一連の動きを見るに、スプリントはブラック企業として悪名高いディッシュに買われるよりも、かつてボーダフォンによる経営失敗によって窮地に立たされていた通信会社をV字回復で復活させたソフトバンクの経営手腕に委ねたいといったところなのでしょうか。ソフトバンクもまた、携帯電話事業で積み上げた経営ノウハウを持ってアメリカ進出を成し遂げたいところであり、今回の提訴が認められるかどうかは、スプリントとソフトバンク両社にとって大きなポイントとなりそうです。

[ロイター]

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