ドルフィン・ブラウザ社長インタビュー 「アプリ市場には競争が必要」

Androidアプリ黎明期から「カスタムブラウザ」として人気を博しているのが「ドルフィンブラウザ(Dolphin Browser)」だ。ジェスチャや音声認識といった画期的機能はもちろん、HTML5やJavaScriptといった、昨今のリッチWEBコンテンツに欠かせない要素においてベンチマークで好成績を残すなど、『多機能と高速化』を両立しているブラウザである。

今回は、ドルフィンブラウザ日本語版のメジャーバージョンとなるv10.0.0がリリースされるとのことで、日本法人であるドルフィン・ブラウザ株式会社 の代表取締役を務める須賀正明氏にインタビューをおこない、気になる新機能はもちろんのこと、ドルフィンが考えるウェブの公平性や平等なアプリ市場についての考えをうかがってきた。

今から約15年前に勃発した、「IE vs ネスケ」のブラウザ戦争を彷彿とさせる昨今のスマホブラウザ市場において、何がイノベーションを阻害したのかという同氏の言葉からは、考えさせられる点が非常に多いものである。

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ドルフィン・ブラウザ株式会社 代表取締役 須賀正明氏

――本日はよろしくお願いします。早速ですが、ドルフィンブラウザ日本語版のv10.0.0では、何か大きく変わった点があるのでしょうか。

こちらこそ、よろしくお願いします。今回はじめての試みとなるのですが、「Dolphin Jetpack」を本体に同梱しました。これは日本だけの試みです。Jetpackを導入すると、デフォルトのドルフィンブラウザよりもレンダリングが速くなったり、HTML5を強力にサポートしたり、JavaScriptの実行が速かったりと、ユーザーの方にとって利点が多く、ぜひとも使って頂きたいと前々から思っていたものです。

しかしグローバルでみると中国の山奥やロシアなど、通信環境が悪いところも多く、その地域のユーザーはファイルサイズに敏感なのです。同梱してしまうとファイルサイズが8MB程度大きくなってしまうので、一緒にしたくても出来なかったという事情がありました。日本はLTE環境も整っており通信環境が非常に良いですし、開発チームに「ぜひ入れて欲しい」と強く要望して実現したものです。

――日本の市場や通信環境といった事情をよく知っている日本法人があるからこそ実現したものですね。

そうですね、日本にいないと通信環境がどれほど良いかとか、通勤時間に電車に乗りながらアプリをダウンロードできるということを理解し難いようです。世界には、未だに公衆回線ではアプリのダウンロードができないユーザーがたくさんいるのですが、そこだけに合わせると環境が整っている国ではメリットを享受できないので、開発側にその点を訴えました。

――開発チームの方とはどれ位の頻度でやりとりされているのでしょうか。

製品チームとは週に1回はSkypeのビデオチャットを使って会議しています。また、1か月の間に1週間程度は渡航して実際にやり取りしています。それ以外のコンタクトが毎日あって、時間を問わずSkypeやメールなどで連絡や質問がどんどん飛んできます。

dolphin002――開発を行う際になにか重視している点はあるのでしょうか。

やはりユーザーの声は唯一のものですので、それに耳に傾けるというのはとても重要だと思います。私も、実際に日本のユーザーからいろいろな意見を聞いて海外の開発チームにフィードバックするのですが、毎回質問攻めに遭います。「あれはどうだった?」「この機能は好評だった?」と。

そもそも、ブラウザそのものが好きな人たちなので、日本のユーザーの意見も本能的に気になるのだと思います。私はそれを伝える役目でもあるのでしっかりと伝えるのですが、お互い良いものにしようとする気持ちが強いので、ついついヒートアップして白熱した議論になることもあります。

最近では日本のユーザーから要望の多い「Flashのサポート」でも白熱した議論を重ねました。そんな過程を経て、V10.0.0からはプラグインさえ導入すればFlashの表示も可能になります。

――こうしてお聞きしていると、常にユーザーを中心に考えて開発している印象を受けるのですが。

それが、私たちが唯一生き残れる方法だと思います。ブラウザは数多ありますし、例えば特定のゲームアプリと違って「それじゃなきゃダメ」というものでもないじゃないですか。ChromeやFirefox、Operaなどの選択肢があって、その中からドルフィンブラウザをユーザーに選んでもらうにはユーザーのためになるものを出し続けていかなければいけない。それをやめたら終わりだと思っています。それが危機感に繋がって、私たちのモチベーションにもなっています。

――昨今のブラウザ業界を見ていると、スマホのOSにブラウザが標準バンドルされるなど、一時期のブラウザ戦争の頃を彷彿とさせるのですが、どのようにお考えでしょうか。

例えば、15年~20年前のことを皆さんに思い出してほしいのですが、最初に出たメジャーブラウザってネットスケープじゃないですか。もちろん凄いシェアで、上場までしてアメリカのドットコムブームの先駆け的企業でした。

その当時、ネットスケープって最初は売り物で、アメリカだと50ドル程度。今では考えられないですけど、当時はブラウザを買っていたのですね。その後、IEがでてきて無料化して、ネットスケープも無料化せざるを得なくなった。

何が言いたいかというと、ネットスケープ独占のときは誰も50ドル支払うということに抵抗がなく、文句も言わず、払いたくないけど1つしかないから仕方ないという状況でした。でもIEが出てきてそれが変わった。彼らの功績はブラウザを無料にしたことだと思うのです。競争があるから50ドルというものが「ゼロ」になって、それがそのままユーザーの利益に繋がった。競争ってそういうところが良いのだと思うのです。

ところがその後、ネットスケープの元気がなくなってそこから5年位ほとんどIEの世界になりました。IE4/5/6と…一時95%前後のシェアがあったとも言われていましたが、「その間にIEが私たちに何か良いことをしてくれましたか」というと、無いですよ。IE6なんて正直いまだにWEB業界の人にも嫌われていますよね?

――正直なところ、IE6には早く…(笑)

そうですよね(笑)。Active Xなんてありましたけど、いまや誰も使ってないに等しいです。独占して彼らはユーザーのために何かイノベーションしたかというと、彼らの利益になることをイノベーションした。ユーザーにメリットは何もなかった。

例えば、最初にタブブラウザを作ったブラウザってご存知ですか。

――(うーん…)

これは諸説があるのですが、実は1994年に出た「インターネットワークス」というブラウザが最初のタブブラウザだと言われています。日本だと「ドーナツ(Donut)」というブラウザがありました。これはIEのコンポーネントブラウザですけども、タブブラウザという概念が出始めたのはその頃です。そしてFirefoxやOperaも採用し、ついにはIEも採用しました。

今ではメジャーなタブブラウザも、独占していたIEが作ったわけじゃなくて、競合相手が作っていたのです。なぜなら、そうしないと競合は生き残れなくて、さらにそれがユーザーのメリットになると思ったから作り出した。今ではタブブラウザじゃなければ使わないという人ばかりになった程です。

このことを考えても一社独占は何の良いことも無いと思うのです。特にインターネットは伝搬が速いですから、独占がバーッと広がってしまいます。

インターネットの世界はオープンであるべきだし、誰もが平等で、競争して良い物を作っていき、結果として全体最適されていくことが実経済社会より顕著に表れる世界だと思うので、GoogleさんがChromeをAndroidにバンドルしてシェアが伸びるという現実はありますが、それでもやっぱり、競争は必要だと思います。

ブラウザは毎日使うものなので、恐らく、空気のような感じで使っているユーザーは居ると思います。あまり意識せずにデフォルトブラウザを使うユーザーが多いのは仕方ないとは思いますが、「あれ、ちょっと待って。なんか使い辛いな」とか、「もうすこし良いものないかな?」と疑問を持つユーザーもいると思うので、そういうニーズに私たちのようなサードパーティーのブラウザは応えているので、(ブラウザ市場に)居続けなくてはならないと強く思っています。

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▲自身のスマホをサッと取り出し、ブラウザを操作しながら説明してくださった。
「アプリ市場には競争が必要。ドルフィンはアプリ市場を良くしたい」と須賀氏。

――例えば、Androidのアプリ市場で平等を保つためにGoogleがしたほうが良い施策はなんだと思いますか。

Windowsにブラウザが標準搭載された時に欧州でかなりバッシングがあり、結果的に「Windowsに標準でブラウザは載せちゃいけない」という裁定が下りました。Androidがプラットフォームとして本当にオープンになるというのであれば、ブラウザとかメールのアプリなどにも “工夫” をするべきではないかと思います。まぁ…もっとひどいのは某社さんなのですが…標準ブラウザが変えられないOSってどんなOSだよって(笑)。

――(一同笑い)

でも、あれは「ブラウザがスマホの中で一番大切なもの」だと分かっているから絶対にそこは譲らないわけですね。彼らはインターネットの入り口は非常に重要だと思っているということの表れだと思うのです。

ただ、私たちがやらないことは「GoogleさんとかChromeを攻撃しない」ということです。私たちがやらなくてはならないことは「少しでもブラウザを使いやすくして、ユーザーに選んで頂けるようなブラウザになる」ということしかない。それはChromeやFirefoxと比べてということではなくて、むしろ競争相手とかどうでもいい。それよりもユーザーと向かい合うことが重要で、そこにしか答えが無いと思っています。私たちがユーザーに選択肢の一つとしてドルフィンブラウザが提供できたらいいなと。そうすれば、独占というものが避けられると思いますし、競争が生まれることによって私たちや他のブラウザからイノベーションが生まれることもあると思います。それが結果的にユーザーの利益になるのではないでしょうか。

――最後にドルフィンブラウザが理想とする「モバイルプラットフォーム像」を教えてください。

モバイルプラットフォームの理想像として、短く答えるならば「オープン」に尽きると思います。オープンの定義はいろいろあって難しいとは思うのですが、色々なテクノロジーはクローズなところからスタートして、必ずオープンなところに向かっていきます。20年位前からこの業界にいるのですが、すべてのテクノロジーはそれと同じ道を歩んでいる。それがユーザーにとってメリットになるし、だから自然とそのような道を歩むのだと思います。

ブラウザは使い勝手や利便性がまだまだ向上できるアプリだと思います。私たちはこれからもユーザーのニーズに向き合ってブラウザを開発し続けていきます。

(聞き手:管理人 / ガジェット速報編集部)

[Google Play ストア ― ドルフィンブラウザ]

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