日本家電の復活あるか ―スマホ市場と比較して見る、テレビ今後の行方

―プラズマは戦略的撤退だ、これからは4Kの液晶である

パナソニックからこんな声が聞こえてきそうだ。日本経済新聞は9日、パナソニックが “4K” 対応テレビの比率を高めるなどして、液晶テレビ・パネルにおける戦略にテコ入れを行うと報じている。先日、同社のプラズマ完全撤退が報じられたばかりの同社だが(過去記事)、それによってリソースが空く経営資源を液晶テレビに注力する。

より安いテレビを生産するため、液晶パネルは外部調達を増やす。さらに、次世代テレビとして注目を集める “4K” 対応テレビを他社よりも力をいれ、先進国でのシェア拡大を目指す。また、消費者別の需要に合わせた生産・販売体制を行い、地域対応型で米国や新興国向けにテレビを販売する。

一方、自社生産の液晶パネルについては、テレビのような大型のものから、社外のタブレット端末などに供給する中・小型の比率を増やし、現在の2割から8割まで、今年度中に引き上げるとしている。

panasonic-4k-wt600

パナソニック 4K対応WT600

世界の薄型テレビ市場では、韓国サムスンやLGの格安製品の登場で、日本の家電メーカーは窮地に追い込まれた。ブラウン管時代に隆盛を極めた市場であっただけに、その打撃は日本家電衰退の代名詞と言えるほどであった。

一方、日本では国内メーカーのテレビが今でも圧倒的に多く、スマートフォンのように撤退も多くないため、消費者の目にはその様子がとらえ難いのもまた事実である。しかし、ここ最近、状況が変わってきてはいないだろうか。大手家電量販店のテレビコーナーに、海外メーカーが国内メーカーと同様にラインナップされているのが見て取れるのだ。このような状況はスマホと同様の事態を招きかねないと、筆者は危機感を募らせている。

スマホは撤退、テレビは継続 ―なにが違うのか

スマホ・テレビの両市場は共に日本企業が現在苦戦している分野の一つである。しかし、スマホでは相次いで撤退しているのに対して、テレビではあまり撤退報道が聞こえてこない。これはなぜか。

結果論的に一つの解釈をするなら、それは日本市場での売れ行きである。繰り返すようだが、日本のテレビは日本では売れているのだ。一方でスマホ(フィーチャーフォン)は、iPhoneという黒船の登場で、売れなくなってしまった。単純な話のように思えるが、その背景を考えると意外に奥が深い。私見ではあるが、スマホ市場とテレビ市場の違いから、その概要を解説する。

iphone5s-side-by-side

黒船:iPhone

違い1:先行投資・先進性

まず一つ大きいのは、苦境に至るプロセスが異なることである。スマートフォンの開発が後手後手になってしまったのに対し、薄型テレビには技術面でのアドバンテージがあった。

テレビにとって最も重要なパーツは言うまでもなく「ディスプレイ」であるが、現在の主流である液晶ディスプレイを世界で初めて量産に成功したのは言うまでもなく、あの「シャープ」であった。さらに、液晶テレビを普及に至らせた、その足がかり的企業もシャープだ。当時同社の社長を務めていた町田勝彦氏は「2005年にはシャープのテレビを全て液晶にする」と発表、ブランドにもなった亀山工場で生産を行い、大ヒットを記録した。

431255

シャープ LC-13C2E

ちなみに、その一方でプラズマに注視したのがパナソニックであった(液晶の価格下落や技術向上で撤退に至ったのは報道の通り)。

そのように市場を先導したテレビ市場で低迷に至った原因は、韓国サムスンやLGが格安でそれなりの製品を出してきた、ということである。一定の品質を確保した液晶パネルの価格破壊が進み、自国・自社のパーツで製品を作ることにこだわった日本のメーカーは、価格競争に付いて行くことができなくなったのである。結果、対応が遅れて世界シェアは奪われ、日本でも他社製のパネルを一定量確保し、価格を下げざるを得なくなった。利益率は大きくさがり、多くの国内メーカーがテレビを赤字事業にしてしまったのである。

large01

LG Smart CINEMA 3D TV 55LA9600

一方でスマートフォンはというと、市場参入自体が遅れてしまった。「いやいや、日本には高機能なフィーチャーフォン(ガラパゴスケータイ)があったじゃないか。」という疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれないが、まさにこの考えが日本企業の低迷を引き起こしてしまったのである。

今でこそ時代の流行とさえなっているが、当時iPhoneが日本で売れるなんて全く思われていなかった。いわゆるガラパゴス機能(赤外線・おサイフケータイ・ワンセグなど)が一切搭載されないiPhoneが、日本人に魅力に映るとは考えなかったのである。しかし、売れた。

実態は、同じ “ケータイ” 市場ではなく、”ガラケー” 市場から “スマホ” 市場という全く別の異なる舞台への変遷だったのである。ブラウン管テレビが薄型テレビに一気に変わったのと同様だ。

この認識の違いが現在の低迷を起こした原因の一つと考えられそうである。その証拠に、いち早くスマートフォンに参入したソニーは、いまでも生き残り続けている(ちなみに、テレビでその舞台の移り変わりに出遅れたのはソニーである)。

長くなってしまったが、要するに、テレビは価格、スマホは技術で低迷したということである。

違い2:規格制限による保護の有無

「海外企業の参入のしやすさ」も違いの一つである。スマートフォンもテレビも、発売する国の規格(主に電波)に合わせなければならないことには変わりがない。しかし、テレビの場合はそれに加えて、放送局側の意向や著作権(あるいは利権)というものが関わってくる。日本はそれらの権力が比較的強く、自由な発想で製品を出したいメーカーにとっては参入し難いことこの上ない。最近では、多機能さが特徴であるパナソニックの新型テレビ「スマートビエラ」のCMが民放各局で放映を拒否されるなど、その影響は顕著である(インターネット機能を前面に押したのが原因とされている。なお、最終的にパナソニックが折れた)。

VT60_02-700

スマートビエラ WT600

皮肉な話ではあるが、その保守的な制度が日本企業を守ってきたのもまた事実だということだ。法的に保護されている日本の農産物と実質的に同じである。しかし、その状況も終焉が近づいている可能性がある。そう、TPPの参入だ(後述)。

違い3:買い替えサイクル

さらにもう一つの違いは、買い替えサイクルである。「いや、同じだよ」という方もいらっしゃることは存じているが、一般的には大きく異なる。

ジーエフケー・マーケティングサービス・ジャパン株式会社によれば、国内の2012年第4四半期におけるスマホからスマホへの買い替えサイクルは平均1.7年と、2年を下回っている。フィーチャーフォンを含めた買い替えサイクルでも3.3年であるとしており(2012年)、そのスピードは年々上がってきているのだ。それも影響してか、通信キャリアは機種変更やMNPのキャンペーンを相次いで打ち出している。

逆にテレビの買い替えは遅い。米市場調査会社DisplaySearchによれば、現在6.9年程の買い替えサイクルで推移しているという(世界14カ国・地域)。日本はさらに遅く、内閣府の消費動向調査によれば、2012年で8.9年程であるとのこと(2013年3月時点では7.9年。テレビにおいても買い替えのスピードは世界的に上がっている)。

au-u22-kisyuhenkou

一例:auの買い替えキャンペーン

この違いは何を意味するのか。それは市場変動の速さである。考えてみれば当然のことではあるが、「買い替えが早い」ということは市場の発展速度や一般層の適応速度が速いということを意味する。iPhoneが “一気に” 広まったのも、このことが背景にあるのである(iPhoneがサイクルを速めたとも言えるかもしれない)。

市場変動が速いと、革新的・魅力的な製品が市場に表れたとき、その影響が即座に表面化する。逆に遅ければ、魅力的な製品が登場しても明確に影響が表れてくるのには “ラグ” が生じる。

つまるところ、スマホでは既に市場変動の影響が表れているが、テレビはこれから、ということになる(かもしれない)。

今後何が起こるのか

ここまでの話をまとめると、「今まで」の日本における状況は以下のようになる。

スマートフォン テレビ
技術開発 遅延 先行
参入のし易さ 普通
買い替えサイクル 速い 遅い

では今後何が起こるのか。上記であげた、テレビの “アドバンテージ” ともいえる3点は、全て覆る(意味をなさなくなる)可能性がある。

「技術開発」は言うまでもなく、LGやサムスンの台頭が要素の一つだ。今年初頭、サムスンは世界初の曲面型有機ELテレビをCES2013で展示を行った。さらに先月行われたIFA2013では、4K解像度対応の有機ELテレビも初披露しており、開発のスピード性が垣間見える。

これは、日本の技術が劣っている証拠にはならないが、少なくとも、次世代の市場でもライバルに成り得ることを意味している。

「市場参入のしやすさ」という点では前述の通り、TPPやFTA参加の影響が否定できない。中でも「ISD条項」と呼ばれるルールが仮に採択された場合、海外の企業が不利にならないような体制にする必要がでてくる可能性がある。大きく話がそれてしまうため詳細は割愛するが、詳しく知りたい方は是非自ら調べてほしい。

「買い替えサイクル」については、次の時期が近いということが言える。4Kの本格普及や、さらにその上位規格である8Kの登場はそれほど遠くない。2020年の東京オリンピック開催も手伝って、現在冷え込んでいるテレビの買い替え需要は増加することになるだろう。日本政府は、来年2014年には4K、16年には8Kの試験放送を開始する計画で、オリンピック開催までに8Kの本放送を始める可能性すらあるからだ。スマートテレビの一般化も進み、今後数年以内に買い替え需要が高くなることは間違いない。

sharp8kprototypeces2012

 シャープ 8Kテレビのプロトタイプ

結局のところ、どうなるの?

結局私が言いたいのはこうだ。

「今後、スマホと同じようにテレビ市場にも大幅な変遷が起きる時期がいずれ来る。日本の家電企業にとってはここが踏ん張りどころ。ならいつやるか?」

…ここ数年が勝負であるからして、日本企業には “今” 頑張ってほしくて仕方がないのである。

まとめとコメント

初めの話に戻るが、今回報じられた「パナソニックが4Kに注力する」という事実を、私は英断だと思っている。世界的にも日本的にも、4Kブームが来ると「断言」はできないが、少なくとも先を見据えて動くことは歓迎すべきことだ。

パナソニックに限らず、日本メーカーは “攻めの姿勢” で、創造的な・将来性のある製品を作ってほしい。日本メーカーにはこれを実現する能力があると、私は信じて疑わない。

[日本経済新聞]

参考:SankeiBiz現代ビジネスPhile-web内閣府EMSOneGFK JapanSlashdot

このニュースでディスカッション
  • コメントを投稿する際には「コメントガイドライン」を必ずご覧ください
  • コメントを投稿した際には、コメント機能利用規約(ガイドライン)に同意したものとみなされます
  • 主要ニュースサイトなどの「許可サイト」以外のURLを含む投稿はコメントが保留されます