佐賀県立高校の新入生全員にWindows 8 Pro搭載PC/タブレットを導入 ―2014年度から

佐賀県教育委員会とWindowsクラスルーム協議会は10日、都内で共同記者会見を行い、「教育の情報化に係る調査・研究」の契約を締結し、ICT教育と関連環境の構築に関する共同研究を開始すると発表した。これに伴い、佐賀県下の県立高校36校全てにおいて、2014年4月から新入生1人につき1台の個別学習用PCを導入する。

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今回導入される学習用PCは、現時点において具体的な機種は決定していない。しかしながら、今年度に至るまでの試験導入・検証の結果、『Windows 8 ProをOSに採用したPCが望ましい』との判断に至ったとのこと。具体的には『Windows 8 Pro搭載タブレット』と言及されているが、何よりも重視されるのはPCとして活用できる点にあるという。

タブレット端末を導入するとなると、その点のみがメディアにクローズアップされがちであるが、この点に関して佐賀県教育委員会の教育長を務める川﨑俊広氏は、「PCとして利用できるのが大前提。その上でタブレット機能も」というスタンスを示している。

これは、同県が『発信者としての立場で生徒がPCを活用できるようにする』というスキルを重視した結果であり、卒業後もスキルとして活きる『Microsoft Office』などの技術習得も兼ねているためだ。

そのため、導入されるPCにはMicrosoft Office Professional Plus 2013を同梱。さらに端末のみを配布するのではなく、効果的に活用するためのデジタル教材、ウィルス対策ソフト、モニタリングソフトといった教育用管理ソフトも備える。これらの環境構築についてWindowsクラスルーム協議会と佐賀県教育委員会が共同研究を行い、ブラッシュアップを図る。

端末導入に際して保護者(家庭)の負担額は最大5万円。仮に端末価格が5万円を超えた場合は県が5万円を超える部分を負担する仕組み。

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『Windowsクラスルーム協議会』は日本マイクロソフトを中心に、デバイスや教材会社など、業界の枠組みを超えた45社の民間企業で構成される団体。教育委員会と共同研究を行うのは今回が初めての試みとなる。

両者は今後、「環境整備」「デジタル教材開発」「教員ICT研修」「セキュリティ対策」のテーマについて2014年6月まで共同で研究を行い、学習の質の向上を目指すと共に、その成果や経験を全国の教育関係者に広く共有することで、教育における情報化の推進に寄与することを目指すとしている。

7年前から事業推進、iPadとの比較も実施

佐賀県は今回の導入に至るまで、平成18年度から7年にも及ぶ検討・試験・検証を重ねてきた。具体的な端末の選定に着手したのは2年前の平成23年度。

試験導入の際には、Windows 7を搭載したタブレット端末を2校に導入。平成24年4月にはiPad 520台を3校に導入し、同11月にはWindows 8搭載端末520台を同じく導入している。OSや機器特性を踏まえた検討を重ねた上で、今回の結果が導き出された。

なお、同県の併設型中高一貫教育校(県立中学校)および特別支援学校には、それぞれ平成24年度および平成25年度の時点で情報端末を生徒に導入している。

良質な学びを「いつでも」「どこでも」「誰でも」

川﨑氏は会見の中で「これからは国際社会で生き抜く力が必要」とし、生徒の学力だけでなく、教師の指導の質、学校運営の改善などにおける課題を克服していく上でICT教育が有力であるということを強調した。

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佐賀県教育委員会の教育長を務める川﨑俊広氏

佐賀県教育委員会ではICT教育は有効な手段であると捉え、電子黒板や学習用PCの導入など、全県規模で「ICT利活用教育」に取り組んでいる。

インターネットを通じた遠隔学習環境が構築できれば、自然災害や新型インフルエンザによる学級閉鎖など危機的状況の中においても家庭等で学習環境を構築出来るほか、長期間の入院や特別な支援を必要とする生徒に良質な教育を提供することが可能となる。

これらを実現するのが、佐賀県が自治体ベースで運営を行う「佐賀県教育クラウド(SEI-Net)」だ。

教育現場にICT教育を導入する際、一般的には「学校単位の独自補助教材の管理」「民間の教材の管理」といった教材コンテンツの一元化に加え、校務管理としての「帳簿等の一括管理」、ポータルサイト構築などが必要となる。それらを県内で共有化することで、質の向上を図ると共にメンテナンス性も考慮。さらに、クラウドを通じることで一般インターネット回線を経由したアクセスも実現でき、前述のような遠隔学習も可能になる。

佐賀県教育委員会によると、「義務教育におけるクラウドは国が構築するべきだ」という意見の存在も受け止めながらも、現実に取り組もうとすると県が行うのが合理的との見解を述べていた。本来であれば義務教育の段階からICT教育を取り入れるのが望ましいとしながらも、左記の理由から、とりあえずは県立高校からでも導入する価値があると判断したようだ。

新しい学習の形

英単語を学ぶ際、辞書にマーカーを引いた経験がある方も多いのではないだろうか。紙の辞書では反復学習が一般的な学習法として広く親しまれていたが、電子辞書ではこのように覚えるプロセスがないので、学習に適切なのかという議論もあった。デジタル教材ではクラウドと連携し、履歴を残していくことで解決することができるという。

例えば、一度調べた単語はクラウドに蓄積され、それらの履歴から小テストを作成することが可能となる。また、履歴データは幅広く活用され、同じ進路を希望している学生が現在習得している習熟度を教えてくれるほか、現在の学年において習得していなくてはならない単語を辞書で引いた際に、注意を促すことも可能とのこと。

Windowsクラスルーム協議会では「これらの機能をすべて実装する予定はない」としているが、佐賀県と共同で思案していく中でより良い仕組みを構築していく構えだ。

教職員の指導も重要

本取組における主役は児童生徒だが、教職員の指導力も試される形だ。具体的には、学習用PC、電子黒板、デジタル教材など総合的に研修を行い教職員のスキルアップを図っていく。

現在、佐賀県の小中高における教職員の総数は約8000人。各学校に校長が指名した推進リーダーを1名配置し、推進リーダーを中心とした日常的な校内研修を実施するとしている。また、一度の研修で全てを習得するのは困難なため、インターネットを利用したオンラインコンテンツも予定しているとのこと。

リーダー制を採用する理由としては、8000人全員の指導を教育委員会が行った際に、教員が研修中に生徒の自主学習時間(自習時間)が発生してしまうのを避けるためであるという。

ICTの活用は教員の裁量に委ねられている

ICT教育の導入と聞くと「黒板とチョークを可能な限り捨てて無理矢理なデジタル化を行うのではないか?」との考えもあるが、佐賀県の導入事例は異なる。この点については教員からも質問の声が毎度のように挙がるという。

結果からいうとデジタル教材の活用箇所は教員の裁量に委ねられている。

佐賀県教育委員会によると、ICT教育における目的はあくまでも教育の質と学力の向上を目指すことにあるとしている。従って、ICT教育を闇雲に導入するのではなく、従来の “黒板とチョーク” による授業などが効率的で、他にも優秀な教育法が確立されている場合は無理して導入する必要はないとの方針を示した。

そこで、全教職員に対し自身が行っている授業を見つめなおしてもらい、どこにデジタル教材を活用すればより良い結果が得られるのか考えるように促している。

実際に試験導入された事例では、家庭科の授業において、調理の模様をビデオで撮影して録画。それをプレイバック再生することで、調味料の入れるタイミングが早いといったアドバイスを行う事例などが紹介された。その他、体育の授業などでも活用されているという。

ICT教育というと数学や英語といった教材ばかりがクローズアップされがちであるが、上記のように教師の創意工夫によって様々な活用方法が可能だ。さらにその工夫を県内で共有するために教育クラウド(SEI-Net)が必要になるというわけである。

奥深いICT教育

今年夏頃に、佐賀県が県立高校の生徒に学習用PCを導入すると報じられた際、導入候補として挙げられた機種に対して「型落ちの処分ではないか」といった意見も数多く見受けられた。しかしながら、実際にはそのような単純な話ではないことは明白である。

第一に費用負担の問題。冒頭で触れたように保護者負担は5万円と、決して安くはない金額であろう。一般的な高校入学時には、制服・体操服・かばん・学習道具・教科書・定期券といったものを揃える必要がある。概ね10万円を優に超える額になるが、そこに5万円上乗せとなると大きなボリュームとなる。それらを踏まえた上で、将来的なPCをスキルの習得や必要十分の機能・処理能力を有する端末を検討する必要があるのだ。決して無限ではない資金を目の前に、うまく天秤にかける必要があるというわけである。

さらに端末のみがクローズアップされがちであるが、SEI-Netのような統合環境の構築が占めるウェイトも非常に大きい。全校で情報を共有でき、さらにメンテナンス性が高いプラットフォームの構築に成功すれば、授業におけるデジタル教材の活用頻度向上にも影響してくることであろう。

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佐賀県がこのような取り組みを先導して行うことに至った結果には、川﨑教育長の先進的な知見・取り組みも無視できない。同氏が就任した平成18年から事業が始まっており、アメリカやシンガポール、韓国をはじめとしたICT教育を活用している国々の研究も熱心に行われたという。

ICT教育に関する研究は日本においては始まったばかりと言っても過言ではない。佐賀県とWindowsクラスルーム協議会の事例が日本全国に波及するか注目が集まる。

(著:saihiro・管理人 / 編:管理人)

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