日米で同時展開、AQUOS CRYSTALにみる世界戦略

去る18日(日本時間)、ソフトバンクモバイルからシャープ製の最新スマートフォン「AQUOS CRYSTAL」が発表されたのは皆さんご存知のことかと思います。一目見てはっきりとわかる(ほぼ)フレームレス構造に注目が集っていますが、今回の新機種は米国の携帯通信キャリアでソフトバンク傘下のスプリントとの共同開発によるものであることも特筆すべき事項です。

ここでは、この「世界戦略」がこれまでの端末と比較してどのような違いを生んでいるのか、見ていきたいと思います。

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Credit:SHARP製品ページ

機種について

まずは恒例のスペックから見ていきますが、ここで去る5月下旬にソフトバンクから発売されたシャープのスマートフォン「AQUOS Xx 304SH」と比較してみます。

機種 AQUOS CRYSTAL AQUOS Xx 304SH
発売日(予定日) 2014年8月29日 2014年5月23日
搭載OS(発売時) Android 4.4.2 Android 4.4
ディスプレイ 5.0インチ・S-CG Silicon液晶 5.2インチ・IGZO液晶
ピクセル数(解像度) HD(1280×720ドット) フルHD(1920×1080ドット)
CPU MSM8926 1.2GHz(クアッドコア) MSM8974AB 2.3GHz(クアッドコア)
RAM 1.5GB 2GB
内蔵ストレージ 8GB 32GB
外部ストレージ microSDXCメモリカード/最大128GB  microSDXCメモリカード/最大128GB
背面カメラ 約800万画素/CMOS 約1310万画素/CMOS
前面カメラ 約120万画素/CMOS 約210万画素/CMOS
対応ネットワーク W-CDMA方式(900MHz/2.1GHz)
FDD-LTE方式(900MHz/1.7GHz/2.1GHz)
AXGP方式(2.5GHz)
W-CDMA方式(900MHz/2.1GHz)
FDD-LTE方式(900MHz/1.7GHz/2.1GHz)
AXGP方式(2.5GHz)
Wi-Fi IEEE 802.11 /b/g/n (2.4GHz) IEEE 802.11 a/b/g/n/ac (2.4 / 5GHz)
Bluetooth Ver.4.0 Ver.4.0
NFC ×
おサイフケータイ ×
テレビ × ○(フルセグ・ワンセグ対応)
VoLTE アップデートで対応予定 未定(おそらく非対応)
赤外線通信 ×
バッテリー容量 2,040mAh 2,600mAh
防水・防塵 × ○(IPX5/IPX7)
サイズ 131(H)×67(W)×10(T)mm 135(H)×72(W)×9(T)mm
重さ 140g 137g
展開色 ホワイト、ブラック、ピンク、ブルー プレシャスゴールド、ホワイト、ブラック、レッド
高音質機能 Harman社の「Clari-Fi」「LiveStage」
によるCRYSTAL SOUND
国内正規価格
(24回分割時合計額)
54,480円 69,120円

 上記の表では、項目別に優勢(高性能)と思われる部分を赤色で強調表示しています。

表からも明らかなように、先に発売されたAQUOS Xx 304SHと比べてもかなり控えめのスペックとなっています。当然ながら、日本独自の機能であるテレビ受信やおサイフケータイ、赤外線通信には非対応です。

なお、プレミアムモデルに位置付けられた「AQUOS CRYSTAL X」が12月にも発売されると発表されており、こちらは2.3GHzクアッドコア、フルHDの5.5インチ液晶、おサイフケータイやワンセグ機能を搭載の予定。

スペックよりも価格を重視

さて、話題を『無印』の方に戻します。スペックを控えめにする目的、それはおそらく低価格化を実現するためだと思われます。18日の製品発表会でソフトバンクは、日米で共通のハードウェアを使用することでスケールメリットを得られるとアピールしており、ここからもAQUOS CRYSTALがコスト面をかなり気にして開発された機種であることが読み取れます。

表からわかるように国内価格は約1万5000円程度しか変わりませんが、日本向けモデルにはharman/kardonのスピーカーも付属しているため、実際のところはさらに価格が抑えられています。

参考までに…スプリントでの販売価格は239.99ドル(約2万4700円)。(24回分割時は240ドル)
      これは、Sprintで販売されているスマートフォンの中でもそこそこの安さを誇る。

この点から、「ハイスペック至上主義」ともいえる日本国内のスマートフォン事情に対して、廉価な製品でも受け入れられる米国を強く意識した(すなわちスプリントの意向が強く反映された)製品開発が行われたと想像されます。

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インパクト勝負に出たシャープ、フレームレス構造採用を決断

ここからは筆者の完全な推測になりますが、新機種の最大の目玉であるディスプレイのフレームレス構造そのものも、「米国を強く意識した製品開発」による成果だと考えられます。

じつは筆者、昨年にシャープ関係者の方とお話しする機会があったのですが、その時の言葉を要約すると、「フレームのないスマホはウチ(シャープ)なら作れる、が、GOサインが出ない」というものでした。これを素直に解釈すれば、(国内モデルでの)極細額縁採用はコストに対するメリットがないと判断された、といったところでしょうか。

一方、アメリカの消費者は新奇性を好むとも言われます。しかもシャープにとっては今回の製品が米国市場再進出の足掛かりとなる大事な端末。大きなインパクトがなければ気にも留めてもらえないことでしょう。そんな事情もあって、極限までフレームをなくしたスマートフォンが生まれたのではないかと思われます。

再度お断りしておきますが、この主張は筆者が直接聞いた話をもとにした推測であり、公式なソースや報道によるものではありません。

実際、現地では様々なメディアがAQUOS CRYSTALの際立ったフレームレス構造に注目するなど、掴みは上々。

 

シャープが、アメリカにもやってくる最新の携帯電話を日本で発表した―The Verge

 

 

シャープの新しいスマートフォンが独特の画面デザインを持っていると話題に ―ウォールストリート・ジャーナル

 

 

シャープのAQUOS CRYSTALは全部画面だ、ベゼルがない(ほとんど) ―Engadget

また、米国の携帯電話に関する噂やレビューを扱うPhoneArenaでは、iPhone 5sとの比較レビュー記事内で、AQUOS CRYSTALのデザインを次のように評価しています(リンク)。

(原文略)
訳:
2つを見比べると、シャープのAQUOS CRYSTAL(の方)に強く惹きつけられるのは疑うまでもない。ただ単純に、フチなしのディスプレイがなによりも先に目に飛び込んでくるから…ではない。ミドルレンジに位置するスマートフォンということもあって、(AQUOS CRYSTALの)ほとんどを占めるプラスチックボディの品質は高くないと思うかもしれないが、(実際は)しっかりと輪郭の強調されたデザインがスタイリッシュで特長ある見た目を形作っている。
(略)
(2機種の)ディスプレイサイズが1インチも違うことを考えると、 “AQUOS CRYSTALがiPhoneよりちょっとだけ大きい” というのは非常に驚くべきことだ。

評価は良いが、売れるかは微妙

このように一定の評価を得ているAQUOS CRYSTALも、イコール売れるかというと厳しいといわざるを得ません。その理由には次の3つが挙げられます。

まず1点目は米国のみの事情ですが、それはシャープが米国内でまったくシェアを持っておらず、0からのスタートであるということ。

米調査会社のcomScoreによると、2014年7月の米国内における最新スマートフォン販売は、1位のアップル(42.4%)を筆頭に上位5社で実に87.8%ものシェアを占めています。いくらスマートフォン業界の勢力図が一瞬で塗り替わるとはいえ、上位陣を崩すのは簡単ではありません。

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Credit:comScore

2点目に挙げられるのは、日米で同時展開されるとはいえキャリア独占モデルであるということ。

日本のソフトバンク、米国のスプリントともに各国の1キャリアにしかすぎず、特に支配的な地位にいるというわけでもありません。しかもスプリントは競合3社に純増数で大きく水をあけられており、『いま全米で最も勢いのない携帯キャリア』にすら見えます(今後反転すると孫氏は語っているが)。

そして3点目は、まもなく新型iPhoneが登場する見込みであるということ。これが最大の理由といっても差し支えないかもしれません。

 

様々な情報が飛び交っていますが、『iPhone 6』は9月に発表される見通しです。そうなると注目はどうしてもそちらに移ってしまい、8月末に1キャリアから発売された無名のミドルレンジ端末のことなど忘れられてしまいます。

しかも悪いことに、新型発表に伴って必ず起こる “旧型商品”の値下げによって、AQUOS CRYSTALはiPhone 5sと真っ向勝負を強いられることになるのです。

iphone

日本メーカーの海外挑戦のきっかけになれるか

今回のシャープの米国進出によって、同社の米国スマートフォンシェアを獲得できるとは筆者も思っていません。AQUOS CRYSTALはキャリア限定モデルのため、大ヒットでもしない限りそれは不可能です。

ただ、今後全面的に海外進出をしていくきっかけになり得るとは思っています。同機種が米国内である程度の評価を得られれば、後継モデルを含む新たな機種投入にはずみがつくためです。

また、来年にも始まるとみられるSIMロック解除義務化の流れから携帯電話市場の自由化が進めば、キャリアの意向にとらわれることなく、様々なメーカーが海外に再び挑戦してくれるのではないかとも期待しています。

前述したように、(主に発売時期のせいで)AQUOS CRYSTALの出だしは苦しいものとなりそうですが、世界から孤立しガラパゴス化した日本メーカーが再び海外に挑戦していく事は、強く応援したいと思います。

ちなみに現在、海外である程度のシェアを持っている企業といえば京セラとソニーが挙げられますが、どちらも数パーセント以下。

おまけ:シャープの実は…

実はシャープ、Androidスマートフォンを米国で売り込むのは今回が初めてではありません。「FX Plus」という機種(Android 2.2搭載)を2011年8月2日にAT&Tから発売していましたが、いまいちパッとしませんでした。

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参考:[SHARP][Sprint][PhoneArena][comScore][ソフトバンク1/2/3][日本経済新聞][GPAD][ITpro]

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