商用量子コンピューター「D-Wave 2」の処理速度は既存のコンピューターと大差なし…Science誌に論文掲載

2014年6月20日 18:42 │Comments(14)

Written by くまむん

世界で唯一の商用量子コンピューターである「D-Wave」。カナダの企業が開発したこの次世代コンピューターは、計算機の歴史において大きな革命をもたらすものと話題になっていますが、このD-Wave既存のスーパーコンピューターとでスピードテストを行った結果、両者の間には処理速度に大差がなかったとする論文がScience誌に掲載されています。 

D-wave-quantum-computing

量子コンピューターとは

量子コンピューターというのは、文字通り量子力学的な効果を使用して複雑な計算を行うシステムです。

既存のコンピューターでは、0か1のどちらか一方の状態しかとれない「ビット」を使用して計算を行いますが、量子コンピューターでは「量子ビット(Quanrtum Bit, Qubit)」を使用することで、大規模かつ高速・並列に計算を実行することが可能になると言われています。

2011年、カナダのコンピューター企業D-Wave Systemsは、商用では史上初となる量子コンピューター「D-Wave One」を発表。昨年5月には、米グーグルやNASAが共同で設立した量子人工知能研究所(Quantum Artificial Intelligence Lab)が最新機種の「D-Wave 2」を購入したとする記事がニューヨーク・タイムズに掲載されています。

 議論の続く量子効果

華々しいデビューを遂げたD-Waveですが、このコンピューターが量子力学的効果に基づいた計算能力を備えているかどうかについては、未だに議論が続いています。

2011年にNature誌に掲載された論文(※1)では、D-Wave Oneのプロセッサにおいて量子力学的性質の一部が観測されたとしているものの、量子計算の存在を証明するには疑問が残るとする意見もあり、確定的な「証拠」とはなっていません。

また、昨年5月にはD-Waveのコンピューターにも採用されている「量子アニーリング」の効果を実験的に証明したとする論文(※2)がNature Communications誌に掲載されていますが、この時の実験はD-Waveとは別の、8量子ビットの小規模なセットアップ上で行われたものであり、同様の現象が128量子ビットのD-Wave上で起こっているかどうかについては、推測の域を出ていません。

そんな状況の中で行われた今回のスピードテスト。原理実験の妥当性はさておき、既存のコンピューターと量子コンピューターとで有意なスピード差が見られれば、そこに「何か」が起こっていることを示す間接的な証拠になる、というわけです。

有意なスピード差は見られず

今回、スイス工科大学とグーグル、およびマイクロソフト・リサーチなどが参加する研究グループは、最新機種「D-Wave 2」と既存のスーパーコンピューターとを使用し、量子コンピューターにおける高速計算の鍵となる「量子スピードアップ(quantum speedup)」の有無を評価するための実験を実施。

前述した2011年の実験で使用されたD-Wave Oneでは、量子ビット数が128キュビットと十分ではなかったために有意な高速化が見られなかったものの、512量子ビットにアップグレードされたD-Wave 2では何らかの差が見られるだろう、という期待があったわけです。

しかし残念ながら、今回もD-Wave 2が有意に優れていることを示すデータは得られず、既存のコンピューターと大差ない結果に。スイス工科大学のMatthias Troyer氏はこのことについて、「この結果をもって、D-Wave2のデバイスが量子力学的性能を備えていないということにはならない。現状で言えるのは、我々が今回行った実験では(量子効果が)観測できなかったという事だけだ」としています。

D-wave-2-experiment

また、今回Science誌に掲載された論文は今年1月に行われた実験をまとめたものなのですが、実験結果の速報が伝えられた際、グーグルの人工知能研究所はGoogle+上にコメントを掲載(上画像)していました。

これによると、512キュビットを備えているD-Wave 2のチップでも量子ビットの結合状態はまだまだ疎な状態にあり、今後キュビット数を増加してゆくことで量子計算の効果が目に見えて向上してくるだろう、としています。

「夢の技術」から現実へ

およそ10年前、当時学生だった時分に量子コンピューターに関する入門書を読んでいた際に、研究室の先輩から「そんなオカルト信じてるの?」と突っ込まれたことがあります。

当時は、理論をベースに「こういうことが出来るはずだ」ということを描いた書籍はあったものの、少なくとも一般の人がアクセスできるような実験報告はほとんど存在しておらず、雲をつかむような印象でした。

それから約10年が経ち、Nature系列やScienceのような一流誌にも量子コンピューティングに関する論文が多数報告されるようになってきました。何より、宣伝に使われるような派手な成果だけではなく、今回のように(どちらかというと)ネガティブな結果もきちんと公開されているということは、それだけ学術的に検討する価値があるということではないでしょうか。

まだまだ得体の知れないところは残されているものの、量子コンピューティングに関する知見は、理論面・実験面の双方で着実に蓄積され続けています。理論が確立され、量子コンピューターが真に実用化されるまでにあとどれくらいの時間が必要なのかはわかりませんが、夢のような技術を真摯に追求し続けている人がいるというだけでも、なんだかワクワクしてきませんか?

[Science via THE VERGE] [Scientific American]
(※1)Quantum annealing with manufactured spins (Nature)
(※2)Experimental signature of programmable quantum annealing (Nature Communications)
 

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