「精神のアップロード」が実現する未来 ―そこに広がる世界とは

2013年7月3日 20:07 │Comments(92)

Written by 辻谷 陸王

この度、ガジェット速報 with Technityのライターとして新しく配属された辻谷です。テクノロジー全般に強い興味を持っており、その中でも特に未来科学(Futurology)に関心があります。 そのため、私が執筆する記事も最先端科学に関する記事が多くなると思われます。

僭越ながら、記事の中では私自身の考察などを併記させて頂く事になりますが、 テクノロジーの楽しさを理解する一助になれば幸いです。 そんな私の記念すべき一本目の記事は、やはり未来科学に関するものになります。 どうぞお楽しみ下さい。

1. 人類は2045年までに自身の精神をコンピュータにアップロードできる

Googleのフューチャリスト、レイ・カーツワイル氏はニューヨークで開催された「Global futures 2045」での演説で「今から約30年以内に技術的特異点が起こり、人類は精神をコンピュータにアップロードしてデジタルな不死を獲得できる」と主張しました。

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この会議はロシアの大富豪ドミトリー・イツコフ氏によって開催されたもので、有識者たちが2045年に我々の世界がどのように変化しているかということについて語りました。

カーツワイル氏によると、人類は控えめに見積もってもその知性を現在の数十億倍にまで拡大できるとのことで、 自身の著書の中ではかの有名な「ムーアの法則」を遺伝子配列決定と3D印刷技術に応用する形で、技術的特異点に向かう道筋をあらわす図表を示しています。

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2. 技術的特異点とは何か

技術的特異点とは、数学者のヴァーナー・ヴィンジ氏とカーツワイル氏により初めて提示された概念で、人工知能の開発や人間の知識増幅が可能となった時に出現すると言われています。

この特異点以降においては、従来とは全く異なるスピードで科学技術が進歩することから、人類ではなく優秀な人工知能や知能を強化した「新しい人間(ポストヒューマン)」がそれをリードするようになります。従って、通常の人類が行う科学技術の発展スピードに基づいた予測は通用しなくなり、あらゆる未来的な技術が極めて短期間のうちに実現される可能性が高まるのです。

なぜ彼らが支配的に技術開発をリードするようになるのかと言いますと、卓越した知性を持つ人工知能とポストヒューマンが形成する発明文化や様式そのものが、科学技術と同様に異常なスピードで変貌を遂げていくために、通常の人類ではそれを理解する事ができないためだと考えられているからです。 この概念は、ヴァーナー・ヴィンジ氏により1983年に初めて提示されました。

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3. 懸念

カーツワイル氏の主張は、いわゆる「精神転送」を指しています。

人間の精神がインストールされたコンピュータは、機械でありながら「人間らしく」振舞うものと予想されており、このような世の中においては、道徳と知性を兼ね備えた人物の精神が一種の “ひな形” として重宝されるようになる…と、いうのは全くの冗談で、実際にはそう簡単に事は進まないと推測できます。

コンピュータや電脳(ここでは精神データのインストール先が人体外か人体内かで区別)に個人の精神をインストールする場合にまず考えられる問題は、意識の連続性を保てるかという点です。精神をデジタルデータ化した上でそれをコンピュータにコピーするという事だけでも大変ですが、肝心な自意識や自我についての話は一般的にはあまり熱心に交わされていません。 

この問題の厄介な点として、他者がある人物Aを「人物Aである」と認識するためには、質疑応答などによって得られる表面的な情報 ー人物Aが保持している記憶の正確性などー によって決めるほかない、といったことにあります。

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先ほど「既存の人格をトレースした方が効率的」と述べましたが、仮にある人物「X」が自身の精神をアップロードする場合を考えましょう。Xの精神データがアップロードされたコンピューター上では、新たな人格「Y」が誕生しますが、当然、Yの人格は完全にXと同一のものになるです。 

この場合は、どちらを本人として認識するべきでしょうか。オリジナルはXですから社会的には彼こそが本人であると考えられるかもしれませんが、YからするとXはただ単にコンピュータにインストールされなかっただけの自分であり、自分こそは本人であると主張するかもしれません。

精神のコピーを作るという事はこういった「意識のドッペルゲンガー」ともいうべき問題を生みかねないのです。このような未来社会では、精神がタンパク質の容れ物に入っているかどうかはさして重要ではありません。既存の本人確認や証明は一切通用しなくなるでしょう。

4. 弊害

精神をコンピュータにアップロードしてデジタルな不死を獲得しつつ、余計な事を言いかねない「タンパク質の容れ物に残った方の自分」を黙らせるには、コンピュータに人格がインストールされた後にタンパク質の方の自分を殺害するしかありません。

仮にそれを実行した場合、コンピュータの方の人格は自分を殺害した罪で逮捕される事になるのでしょうか?その場合、与えられる刑罰は「スタンドアローン刑」というようなものになるのかもしれません。

あるいは、殺害に失敗してタンパク質の自分に逃げられてしまう可能性もあります。逃げおおせたタンパク質の方の人は大いに苦悶するでしょう。精神転送によってデジタルな不死を獲得できると思いきや、コンピュータの中に居たのは別の自分で、しかもその自分に殺されかける目に遭ったのですから。 

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実際のところ、「我々の意識がどのような構造をしているのか」ということについては現状では未知の領域が多く残されています。技術的特異点以降の未来社会では解明されているのかもしれませんが、それでも精神のコピー、トレース、転送を行う時点でこういった問題は避けて通れないと思われます。

「精神をコンピュータにアップロードしてデジタルな不死を獲得できる」というのは、あたかも施術中には眠っていて、目が覚めたらコンピュータの中に転移されているような言い方ですが、実際にコンピュータの中に居るのは貴方の記憶と人格を持っているだけの他人かもしれません。

[MailOnline Science&Tech]

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