Science誌が選ぶ、2015年のトップ・ブレイクスルーと9つの重要発見

2015年12月30日 00:17 │Comments(0)

Written by くまむん

科学誌Scienceが毎年末に発表している「Breakthrough of the year」が今年も発表されました。

And Science’s Breakthrough of the Year is …
http://news.sciencemag.org/scientific-community/2015/12/and-science-s-breakthrough-year

テレビのニュースなどでも報道されていたテーマから、国内ではほとんど取り上げられなかったものまで様々なテーマが選出されていますが、それぞれの内容について簡単に解説いたしましたのでよければご覧ください。ちなみに、昨年まではRunners-Upが無料公開されていたのですが、今年は購読していないと全文を読めないようです…。。

Breakthrough-of-the-year-2015

議論を呼んだCRISPR/Cas9の応用研究

CRISPR-illustration

CRISPR/Cas9は、細菌やウイルスが外来DNAの一部を切断して自分のDNAに組み込むことで免疫機能を進化させる能力を利用したゲノム編集技術で、TALEN(Transcription activator-like effector nuclease)法やZFN法といった技術に比べて非常に幅広い生物(細菌、線虫、植物、魚、カエル、ハエetc)で利用可能であること、かつ低コストで操作が簡便であることから、2013年に最初の論文が発表されてから急速に改良・普及が進んでいます。

このCRISPR法をめぐって、今年は2つの大きな出来事がありました。一つはブタの内在性ウイルス破壊、そしてもう一つがヒト受精卵のゲノム編集です。

ブタ内在性レトロウイルスの破壊

臓器不全や治療不可能な疾患のために臓器移植を希望する人は増加している一方で、臓器を提供するドナーの数との乖離が年を追うごとに深刻になってきています。そのような状況の中で、近年人間以外の生物、特に生理的特徴が人間に近いブタを利用して移植用臓器を培養する研究が進んでいます。

ただ、ブタの臓器を人間にそのまま移植するわけにはいきません。倫理的な問題もさることながら、ブタ内在性レトロウイルス(Porcine Endogenous Retrovirus, PERV)が臓器移植を介して人間に感染し、がんや遺伝性の病気を引き起こす恐れが考えられているためです。このウイルスは後天的に感染するものではなく、生まれた時からブタのDNAレベルに組み込まれているため 、臓器を生かしたままウイルスを除去することが実質的に不可能です。

そのため、ブタを利用した臓器培養は現実的ではないとする意見も挙がっていたのですが、今年の10月にハーバード大学のグループが、CRISPR技術を用いてブタの腎由来上皮細胞上に存在するPERVのpol遺伝子(ウイルスが自身を複製する際に重要な役割を果たす遺伝子)コピーを62ヶ所で同時に不活化することで、共培養したヒト腎臓細胞への感染リスクを千分の一に低減したとする論文をScience誌に発表。これにより、ブタ臓器の人間への移植可能性が大きく向上しました。

pig-transplant-organ

ヒト受精卵のゲノム編集

人間の受精卵を使ったゲノム編集は、極めてセンシティブなテーマです。エイズや1型糖尿病といった遺伝性疾患の治療法開拓につながる希望的側面がある一方で、ゲノム編集による形質操作が世代を超えて及ぼす影響や、そもそも誕生前の生命に人為的操作を加える事が倫理的に許容されるのかなど、多くの課題が残されています。

そのような中で、今年4月に中国の中山大学(Sun Yat-sen University)の研究グループが、CRISPR/Cas9を利用してヒト受精卵のゲノム編集を行なったとする論文が発表され、全世界の研究者を巻き込んだ大議論が巻き起こりました。

中山大学のグループが行なった実験は、1つの卵子に2つの精子が入り込んだことで正常に発生しない(≒自然に死滅する)86個のヒト受精卵を使い、サラセミアという遺伝性疾患の原因となる「βグロビン遺伝子」の編集を行なったというもの。この遺伝子の発現を選択的にコントロールすることがサラセミアの遺伝治療に繋がるかどうかの検討が目的だったと思われます。

論文によると、死滅した細胞などを除いて最終的には21個の受精卵でゲノム編集の効果が確認されたとのことでしたが、ターゲットとした位置以外での予期せぬ遺伝子変性が確認されたほか、細胞分裂によって増殖した細胞の中には編集内容が引継がれないものがあるなど、結論として「現時点でCRISPR技術を使ったヒト受精卵のゲノム編集は実用的ではない」とされています。

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上記の2例以外にも、11月にはカリフォルニア大学アーバイン校のグループが、マラリアを媒介するハマダラ蚊に対してCRISPR/Cas9によるゲノム編集を行なうことでマラリア原虫への耐性能を99%の割合で遺伝可能な個体を作製したと発表しており、先行研究で課題となっていた世代を超えた編集効果の引き継ぎが実現しています。

また、9月にはケンブリッジ大学のFeng Zhang氏らが、Cas9タンパク質の代わりに「Cpf1」というタンパク質を代替的に利用する新プロセスを開発。Cas9を使用した場合ではDNAの切断に二本鎖RNAが必要になるところを一本鎖RNAで可能にし、より高効率なゲノム編集を可能にしました。

トップジャーナルに掲載されない月はないと言われるほど日進月歩のスピードで進むCRISPR法の研究ですが、実際の医療現場へ投入するまでにはまだまだ多くの課題が残されており、今後も多くの革新的研究が発表されることに期待したところです。また、中山大学の研究をきっかけとして一気に議論が高まった倫理面での課題は、来年以降も引き続き注目を集めることになりそうです。

【参照元】
・Genome-wide inactivation of porcine endogenous retroviruses (PERVs)
 https://www.sciencemag.org/content/350/6264/1101.abstract
・Gene editing could make pig organs safe for human transplant
 http://www.wired.co.uk/news/archive/2015-10/12/gene-editing-pig-organs-human-transplant
・Chinese scientists genetically modify human embryos
 http://www.nature.com/news/chinese-scientists-genetically-modify-human-embryos-1.17378
・CRISPR/Cas9-mediated gene editing in human tripronuclear zygotes
 http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs13238-015-0153-5
・Highly efficient Cas9-mediated gene drive for population modification of the malaria vector mosquito Anopheles stephensi
 http://www.pnas.org/content/112/49/E6736
・Alternative CRISPR system could improve genome editing
 http://www.nature.com/news/alternative-crispr-system-could-improve-genome-editing-1.18432
CRISPR/Cpf1
 https://en.wikipedia.org/wiki/CRISPR/Cpf1

量子の「からみあい」を遠隔地点間で実証

Entanglement

量子力学の世界では、「観測すること」と「存在すること」という2つの概念がしばしば問題になります。

例えば、ある晩、世界中の人々が一斉に「月を見ない」というルールを決めて地球上にいる誰一人として月を目にすることが無くなったとしても月はいつもの場所に存在していますし、月と地球の天体的関係が崩れるということは無いでしょう。このように、ある事象が観測する/しないに依らずあらかじめ結果が確定しているとする考えを「実在性」と呼びます。

また、地球上のとある場所に存在している物体の振る舞いが、約250万光年はなれたアンドロメダ銀河のどこかに存在している物体の動きに影響を及ぼすということは通常考えられません。このように、遠くはなれた位置で観測される事象同士は互いに影響を及ぼさないとする考えを「局所性」と呼び、前述の実在性と同時に成立する事象を表現する場合は、しばしば「局所実在性」と記述されます。

しかし量子力学の世界では、この局所実在性が成立しない結果が、非常に多くの実験で確認されています。すなわち、地球上のとある場所で観測された電子が右回りにスピンしているという結果が得られたその瞬間、宇宙の果てのどこかにある電子は左回りのスピンであるということが「自動的に」決定するということが起こり得るのです。

▼空間を隔てた場所にある量子同士は目に見えない力が働く(画像はYoutubeより引用)

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量子力学における局所実在性の否定、すなわち「非局所的量子相関(エンタングルメント)」の存在をめぐっては、数十年にわたって激しい議論が続いています。というのも、これまでに行われた実験では、どんなに緻密に組み立てられたシステムでも “ループホール” と呼ばれる制約がつきまとってしまうことが大きな課題になっており、科学的に厳密な意味においてエンタングルメントの存在を証明した、と言い切れなかったのです。

しかし、オランダ・デルフト工科大学のRonald Hanson氏らは今年8月、これまでの実験で挙げられていたループホールのうち、局所性と検出精度に関わるものを塞いだ条件下において、1.3km離れた2地点に置かれたダイヤモンド内部の電子に生じるエンタングルメントの観測に成功しました。

この結果は、これまでに行われてきた中で最も厳しい制約下においても非局所相関が成り立つことを示したもので、今後は、量子通信や量子コンピューティングといった応用も視野に入れた事象理解が飛躍的に進むことが期待されます。

▼実験の配置図。A,Bはダイヤが置かれたポイントで、Cが観測点。

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【参照元】
・More evidence to support quantum theory’s ‘spooky action at a distance’
 http://news.sciencemag.org/physics/2015/08/more-evidence-support-quantum-theory-s-spooky-action-distance
・Quantum ‘spookiness’ passes toughest test yet
 http://www.nature.com/news/quantum-spookiness-passes-toughest-test-yet-1.18255
・Loopholes in Bell test experiments(en.wikipedia)
 https://en.wikipedia.org/wiki/Loopholes_in_Bell_test_experiments

新たな人類「ホモ・ナレディ(Homo naledi)」の発見

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南アフリカ共和国のヨハネスブルグ郊外に位置する人類化石遺跡群は、かつて人類進化の重要な手がかりとなる化石群が相次いで発掘されたことから「人類発祥の地」として世界遺産にも登録されていますが、今年9月、このエリアからこれまで知られていなかった新種の人類が発掘されました。

現地語で「星の人」の意味を持つホモ・ナレディ(Homo Naledi)と名付けられたこの人類は、脳の容量や上半身の骨格は猿人の特徴を受け継いでいるものの、腰から下の部分は現代人につながる構造が数多く見られることから、一連の発見をまとめた論文では「進化の歴史において二足歩行を始めたばかりの猿人と現代人の祖先との間に位置する存在」であると述べられています。

また、非常に入り組んだ洞窟の奥深くから少なくとも15体分の完全骨格が見つかっており、周辺に石器や土器などの出土物が見られなかったことから、埋葬の習慣があったとする見方もあります。

▼ホモ・ナレディが発見された洞窟のマップ。入り組んだ構造の最奥に骨が散乱していた。

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現在、発掘された化石は年代測定が進められており、遠からず彼らの生きていた時代が特定されるものと思われます。

【参照元】
・New human species discovered
 http://news.sciencemag.org/archaeology/2015/09/new-human-species-discovered
・This Face Changes the Human Story. But How?
 http://news.nationalgeographic.com/2015/09/150910-human-evolution-change/
・Homo Naledi, New Species in Human Lineage, Is Found in South African Cave
 http://www.nytimes.com/2015/09/11/science/south-africa-fossils-new-species-human-ancestor-homo-naledi.html

極めて効果的なエボラワクチン「VSV-EBOV」の開発

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シエラレオネを始めとする西アフリカ地域を起点として、一時は北米や欧州にも飛び火するなど、空前の大流行に発展したエボラ出血熱ですが、2014年に開発された「ZMapp」を始めとした特効薬(過去記事)によって、現在ではほぼ収束に向かっています。

今年7月に医学誌The Lancetに掲載された論文では、カナダ公衆衛生研究所が開発した「水胞性口炎ウイルス-エボラウイルスワクチン(VSV-EBOV)」をのべ7651人に注射投与した結果として、感染直後に投与した4123人については10日間で発症が0、感染から21日後に投与した3528人についても発症者は16人に留まっており、非常に高い発症予防能を示したと報告しています。

このVSV-EBOVの臨床試験では、天然痘根絶の際に用いられた「リングワクチン接種方式」で行われており、発症患者と直接接触した一次接触者へワクチンを投与し、次に一次接触者とコンタクトをもった二次接触者にワクチンを投与するといったプロセスがとられました。

これは、火事の火元を抑えると同時に周りの燃焼物を撤去することで延焼を封じ込める手法と似ており、天然痘の際に使われた手法と強力なウイルスワクチンとを組み合わせることで、エボラのような致死性の遥かに高い伝染病でも効果的に封じ込めることが可能であることを示した結果となりました。

2015年12月時点で、すでにシエラレオネではエボラの終息宣言が出されており、ギニアでもまもなく終息するものと見られています。

【参照元】
・Ebola vaccine works, offering 100% protection in African trial
 http://news.sciencemag.org/health/2015/07/ebola-vaccine-works-offering-100-protection-african-trial
・Efficacy and effectiveness of an rVSV-vectored vaccine expressing Ebola surface glycoprotein: interim results from the Guinea ring vaccination cluster-randomised trial
 http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(15)61117-5/abstract
・VSV-EBOV(en.wikipedia)
 https://en.wikipedia.org/wiki/VSV-EBOV

イースト菌からモルヒネを産生

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ケシの実から抽出されるモルヒネは、その強力な鎮痛作用からガン治療などで欠かせない薬物となっています。しかし、終末期医療の現場などで使用する場合は、費用が高額になることから、安価かつ効率的に生産する手法が求められています。

スタンフォード大学のChristina D. Smolke氏らは、今年8月にScience誌に掲載された論文で、イースト菌にケシやオウレン(黄蓮)・バクテリア・マウスの遺伝子群を組み込むことで、モルヒネやオキシコドンといった麻薬様成分の生産能力を持たせることに成功したと報告しています。

モルヒネ生産は、コストがかかる化学合成プロセスを利用したものか、天候に左右される植物からの採取によるものでしたが、イースト菌のような安価に利用可能な “触媒” を用いる手法が開拓されたことで、将来的には従来よりも安価かつ大量の薬剤生産が可能になるかもしれません。

【参照元】
・Modified yeast produce opiates from sugar
 http://news.sciencemag.org/biology/2015/08/modified-yeast-produce-opiates-sugar
・This genetically modified yeast can now brew morphine
 http://www.pbs.org/newshour/updates/brewers-yeast-morphine-sugar/
・Narcotic Drugs Can Be Coaxed From Yeast
 http://www.nytimes.com/2015/08/14/health/narcotic-drugs-can-be-coaxed-from-yeast.html

心理学の研究結果は6割以上が再現不可能

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人文科学にしろ自然科学にしろ、何かしらの新しい発見があった場合にそれが「信頼できる」と評価されるためには、投稿した論文が受理・公開されただけでは十分ではありません。公開された論文が多くの研究者の目に触れ、論文に書かれた手順で同じ結果が得られるか、統計的手法は適正に使われているかといった評価の上で他の論文から引用され、研究者コミュニティの中で受け入れられて初めて、その研究内容は市民権を得ることになります。

そういった意味では、研究結果の再現性は科学研究において極めて重要な意味をもつのですが、今年8月に発表されたニュースは心理学の分野に大きな衝撃をもたらしました。

2011年から始まった、世界中の研究者269名からなる国際プロジェクト「Reproducibility Project」が心理学の論文100報を詳細に検討したところ、オリジナルの論文通りの手順で再現性が認められたものはわずか39本にとどまり、残りの61本については十分な信頼性を認めることが出来なかったとのこと。

さらに、スタンフォード大学のJohn Ioannidis氏によると、Reproducibility Projectは影響力のあるジャーナルに掲載された論文のみを対象としており、また同プロジェクトの再現プロセスは簡易化されていることから、それらの要因を除外した場合、再現性のない論文は全体の8割にも上る可能性があると指摘しています。

プロジェクトでは、こうした再現性の問題は(STAP細胞などに見られるような)作為的なデータ操作や剽窃に依るものではないことから、研究結果自体を否定するものではないとしつつ、特に心理学の分野では、有名なジャーナルに論文が掲載されているからといってその内容が妥当なものであるかは十分な検討が必要になるであろうとしています。

【参照元】
・Many psychology papers fail replication test
 http://news.sciencemag.org/brain-behavior/2015/08/many-psychology-papers-fail-replication-test
・Over half of psychology studies fail reproducibility test
 http://www.nature.com/news/over-half-of-psychology-studies-fail-reproducibility-test-1.18248

巨大マントルプルームとホットスポット

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地球がカメやゾウの上に乗った半球体であると考えられていた時代に比べて、その内部構造に関する知見は飛躍的に向上していますが、それでもなお多くの謎が残されています。

その一つが「マントルプルーム」と呼ばれる、地球のコアから地表近くにまで続く流動マントルの上昇流です。これまでの研究では、地球内部から垂直に立ち上ってくる巨大なマントル流が存在していることは判っていましたが、それらが地表で起こる火山活動にどのような影響を与えているのか、また上部マントルで起こっている大規模なマントル対流がどのような影響を与えているかといったことについては分かっていませんでした。

カリフォルニア大学バークリー校のグループが、過去20年間に発生した273の巨大地震の伝搬パターンをスーパーコンピューターを用いて高解像解析した結果、深さ1,000kmより下の地中で幅600kmから1,000kmにわたる大規模なマントルプルームが28ヶ所で確認され、その多くは「ホットスポット」と呼ばれるマントルが地殻を突き破って噴出している場所の真下に続いていることが判りました。

さらに、それらのマントルプルームは、いずれもコア-マントル境界(深さ約2,900km)に存在している直径5,000kmにも及ぶ2つのマグマ溜まり(huge blobs of hot rock)へ続いていることも判明。論文のシニアーオーサーであるBarbara Romanowicz氏によると、これら2つのマグマ溜まりは2億5,000万年前までは一つであったと考えられるとのことです。

▼発見されたマントルプルームと2つの巨大なマグマ溜まり。

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研究グループでは、こうしたマントルプルームとホットスポットの関係が明らかになることで、ハワイやサモアなどで見られる列島(island chain)形成メカニズムを理解する上で重要な手がかりとなるほか、人間社会にカタストロフィックな影響を及ぼす大規模噴火に関する知見向上に役立つとしています。

【参照元】
・Mantle plumes seen rising from Earth’s core
 http://news.sciencemag.org/earth/2015/09/mantle-plumes-seen-rising-earths-core
・CT scan of Earth links deep mantle plumes with volcanic hotspots
 http://news.berkeley.edu/2015/09/02/ct-scan-of-earth-links-deep-mantle-plumes-with-volcanic-hotspots/

脳にもリンパ管が存在している

brain-lymphatic-system

人間の体には、免疫系で重要な役割を果たすT細胞やB細胞などといったいわゆる「リンパ球」を体の各所に輸送したり、蓄積した老廃物や傷ついた細胞を回収する「リンパ管」が張り巡らされており、生体の恒常性を維持する上で極めて重要な役割を担当しています。

人体内部のリンパ管は1600年代に初めて発見されましたが、そこから積み重ねられてきた膨大な数の生体解剖においても脳内にだけはリンパ管がどうしても見つからず、そのため脳は全身の免疫系の仕組みから独立した「免疫特権」の臓器であると考えられていました。

しかし今年6月、ヴァージニア大学のグループが、脳内に存在しているリンパ管を発見したとする論文をNature誌に発表。脳には組織を保護するための “髄膜” という三重構造(外側から硬膜・くも膜・軟膜)の膜組織が存在していますが、Antoine Louveau氏がこの 髄膜を観察していたところ、硬膜の内部の血管と非常に近接して走るリンパ管(正確にはリンパ球が密集した管系)を発見したとのこと。

通常の解剖観察では組織を切り出して行うために生きている時の状態そのままを見ることは難しいのですが、今回の研究では「潅流固定(prefusion fixation)」という手法で組織を生きている時の状態で固定してから行なっていたこと、また脳内に存在しないとされていたリンパ球の一種であるT細胞を染色する実験を行なっていたことが発見に繋がったそうです。

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脳の免疫系をめぐっては、2014年にも英ロチェスター大学のグループによって、脳が “glymphatic system” という新たに発見された脳脊髄液の通り道を介して睡眠中に老廃物の排出を行なっている(過去記事)ことが明らかになるなど、生物の教科書にも載っているような「定説」を覆す発見が相次いでいます。

こうした発見は、リンパ系が存在しないとされてた脳になぜか発生する悪性リンパ腫の原因を解明する上で重要な手がかりとなるほか、将来的にはアルツハイマーをはじめとした様々な脳疾患の治療法開拓にも繋がるものと期待されます。

【参照元】
・The Brain Is Actually Connected to the Lymphatic System
 http://blogs.sciencemag.org/pipeline/archives/2015/06/03/the_brain_is_actually_connected_to_the_lymphatic_system
・Unraveling the link between brain and lymphatic system
 http://medicalxpress.com/news/2015-06-unraveling-link-brain-lymphatic.html
・Structural and functional features of central nervous system lymphatic vessels
 http://www.nature.com/nature/journal/v523/n7560/full/nature14432.html 

「ケネウィック人」はアメリカ大陸の先住民だった

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1996年にワシントン州内のコロンビア川流域で発見された約8,500〜9,000年前の人骨は、発見場所の地名にちなんで「ケネウィック人(Kennewick Man)」と呼ばれるようになります。

そのルーツをめぐっては長年にわたる議論が繰り広げられており、骨格構造が現代の白人に類似していることなどからヨーロッパから渡来してきた民族であるとした説が長らく有力視されていたものの、組織の保存状態が良好ではなかったことから長年にわたってゲノム解析が成功しておらず、そのルーツについての科学的裏付けはごく最近まで得られていませんでした。

しかし今年の6月、コペンハーゲン大学やスタンフォード大学を中心とする国際研究グループが、ケネウィック人のゲノム分析に成功。そのパターンを、ネイティブ・アメリカン、アイヌ、ポリネシアンなどといった世界各地域の先住民の遺伝子と比較したところ、ネイティブ・アメリカンのものに最も類似していることが判明し、なかでもコルビル族(Colville Tribe)とは共通する部分が多く見られたとのこと。

北米における人類進化の歴史に新たなヒントを投げかける形となったケネウィック人のルーツ解明ですが、今回の研究結果を受けて、遺骨の埋葬を希望するネイティブ・アメリカンの主張を退けて学術保管を認めてきた司法判断についても風向きが変わってくるかもしれません。

【参照元】
・Mystery solved: 8500-year-old Kennewick Man is a Native American after all
 http://news.sciencemag.org/archaeology/2015/06/mystery-solved-8500-year-old-kennewick-man-native-american-after-all

ニューホライズンズによる冥王星探査

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かつて太陽系の第9惑星に位置づけられていた冥王星は、他の惑星には見られない独特の公転軌道や大きな軌道傾斜角、そして何よりも地球からの距離が遠すぎるため詳細な天体観測が難しいことから、謎の多い天体とされていました。

しかし、冥王星をはじめとする太陽系外縁天体の観測をミッションとした深宇宙探査機「ニュー・ホライズンズ」が今年7月に冥王星に最接近を果たしたことで、冥王星の詳細な姿が明らかになってきています。

冥王星の表面がメタンやアンモニアなどの氷に覆われていることは分光観測などによって以前から明らかになっていましたが、今回の観測では、新たに3,500メートル級の巨大な山が存在していることが明らかになりました。このような山体を支えるためには強固な岩盤が必要になりますが、アンモニアなどの氷では十分な強度が得られないこと、また地表面の所々にH2Oの存在が確認されたことから、冥王星の地下には水の氷が大量に存在している可能性も示唆されています。

さらに、ソリン (Tholin) 呼ばれる微粒子がわずかに届く太陽光を散乱することで地球のような「青空」が形成されているるほか、地表面に(可視光領域での)多彩な色彩が広がっていることも判明し、冥王星の姿は、これまでの想像から大きく覆されることになりました。

▼冥王星表面の画像。ところどころに隆起した山が見える。

plutos-surface

▼マルチスペクトル撮像装置(Multispectral Visible Imaging Camera,MVIC)で撮影された地表面。青い部分に水の組成が確認されている。

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▼冥王星の上空に広がる青色のもや。

pluto-blue-sky

冥王星を通過したニュー・ホライズンズは、現在、太陽系外縁部のカイパーベルト内にある「2014 MU69」という小天体に向けて航行を続けており、2019年1月に最接近が予定されています。

【参照元】
・Pluto is alive—but where is the heat coming from?
 http://news.sciencemag.org/space/2015/07/pluto-alive-where-heat-coming
・Scientists may have solved mystery of dwarf planet’s enigmatic bright spot
 http://news.sciencemag.org/space/2015/03/scientists-may-have-solved-mystery-dwarf-planet-s-enigmatic-bright-spot
・New Horizons Finds Blue Skies and Water Ice on Pluto
 http://www.nasa.gov/nh/nh-finds-blue-skies-and-water-ice-on-pluto

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