【まとめシリーズ】ゴリラガラスのこと、まとめてみました

2013年7月28日 10:09 │Comments(2)

そのインパクトのある名称ゆえに既にご存じの方も多いかと思いますが、「ゴリラガラス」は米コーニング社が製造している、主にモバイルデバイスへの搭載を目的とした高強度ガラスです。iPhoneの画面を守るために開発され、その後、非常に多くのモバイル機器で採用されるようになりました。

この記事では、「ゴリラガラスは普通のガラスとどう違うのか?」「どうやってその強さを実現しているのか?」といったことに関する説明や、補足的に「スマートフォンの保護フィルムには意味があるのか?」ということについてまとめてみました。

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ガラスの強度について

ゴリラガラスについて説明するためには、まずガラスの強度について説明する必要があると思います。

一般的にガラスと言えば、まず家の窓に使う素材です。透明で、値段が安く、加工しやすい便利な材質ですが、とても割れやすいという欠点があります。割れやすいと聞くと、直観的には「硬さが足りないんじゃないのか?」と思うものですが、ガラスは決して硬度が低いわけではありません。

例えば、「モース硬度(物質同士をこすり合わせることで削られにくさを測る、硬さの指標)」で比較すると、ガラスも金属もほぼ同等の数値になります。しかし、金属はよほどの力をかけない限り割れることはありませんが、ガラスは簡単に割れてしまいます。

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この点に関して、科学者たちがガラスの割れるメカニズムを調べてみたところ、何かのきっかけで出来た小さな傷が、ガラスに力が加わる度にどんどん拡大していき、やがては割れてしまうという現象が起こっていることがわかりました。

この一連の過程には、「応力集中」という物理現象が関係しています。工学で言うところの「靱性」(じんせい)の高い物体、つまりは「傷があっても壊れにくい」物体においては、下図のように両端にかけた力は物全体に行き渡り、あちこちに分散して作用します。

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しかし、ガラスのように「弾性係数が高く塑性がない」、つまりはカチカチで融通のきかない物質では、下図のように力は物全体に充満した後に逃げ場を求め、一番構造の弱い部分だけへと集中してしまう現象が起きます。

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これが応力集中です。チョコが分かれ目のところでパキッっと割れるのも、この応力集中が起きているためなので、あの感じをイメージしていただけると分かりやすいかと思います。

ガラスにおいては、この応力集中が過剰に生じるので、最初は微細な傷であったとしても、力がかかる度にどんどんひどい傷になり、そこにさらに応力集中が高まるという悪循環が生じるので、割れやすくなってしまうのです。

この研究により、ガラスを割れないようにするためには、大きく分けて二つの物性を改善する必要があることが分かりました。ひとつは「靱性を上げる」こと。これはガラスにおいては、粘り強く歪むようにし、応力集中が起こりにくくなる性質を持たせることにつながっています。

もうひとつは「表面を破壊するのに必要なエネルギーを大きくする」こと。つまりは表面をできるだけ傷つきにくくすることです。最初に小さな傷が生じないようにすれば、傷が大きくなって割れることもないからです。

ゴリラガラスの製造法

上記のガラス強化に必要な点を、ゴリラガラスにおいては大きく分けて三つの方法を用いて実現することに成功しました。その発明とはどんなものなのか? 少し技術的な側面にも踏み込みつつ、以下に解説していきたいと思います。

1. 原料および組成の変更

窓や瓶などに使われているごく一般的なガラスは、ソーダ石灰ガラス(別名ソーダライムガラス)と言って、二酸化ケイ素(シリカ、SiO2)に、炭酸ナトリウム (Na2CO3)と炭酸カルシウム (CaCO3) を混ぜて作ります。

これに対して、ゴリラガラスの種別は「アルカリアルミノケイ酸塩ガラス」と言い、上の成分に加えて酸化アルミニウム(別名アルミナ、Al2O3)を用いて作ります。

その他にも添加している物質があり、合成法にも様々な工夫があるようです。詳細は企業秘密のため伺い知ることはできませんが、結果として靱性は驚異的にアップし、下の写真のように従来のガラスでは考えられないほど曲げることができるようになりました。

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ゴリラガラスのストレステストの様子。(Youtubeより引用)

2. 成型法の工夫

普通の板ガラスのように、ローラーで押し伸ばしたり、冷ました後に磨いたりしては、新品の段階で表面に細かい傷がいっぱい付いてしまいます。これは一般的なガラスが脆い原因の一つでもあるのですが、それを無くすために、コーニング社は「フュージョンドロー製法」と呼ばれる特殊な成形法を産み出しました。


コーニング社の技術アピール動画。

この製法では、下図のように、まず雨どいのようなところへ融解したガラス素材を流し込みます。それが両端からあふれ出て、容器の両端を伝って一つになり、

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それが綺麗に垂れ下がって、一つのガラス板として切り出されるという加工過程を経ます。

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この手法の巧みなところは、一連の過程で、ガラスの表面が成形装置に触れずに済んでいる点です。表も裏も、装置に触れない面が表面を形成するように工夫されています(イメージしづらい方は動画をご覧になってみてください)。

旧来の成型手法では、装置に接触した裏面が離れる過程で面が不均一になったり、微細な傷が出来たりするのですが、この手法ではそのような影響が全くないため、両面が完璧に平滑で美しいガラスを製造することが可能となっています。

3. 表面の化学処理

前述した1, 2の工夫に加えて、コーニングはガラス表面の化学処理によって強度を飛躍的にアップさせる加工法を生み出しました。ここが特にコーニング社独自の発明と言ってよい部分かと思います。

この手法は、今でこそ「化学強化ガラス」と言う名称で他社にも一般的に広まっている製造法ですが、1962年にコーニング研究所で開発された手法が元になっています。その後もコーニング社はこの手法を改善し続け、2006年にアップル社のスティーブ・ジョブズから依頼を受けた iPhone向けの製品として、ついにゴリラガラスを生み出すに至ったのです。

この化学強化法は「イオン交換強化法」とも呼ばれます。ガラス板を超高温(400℃)で溶融した硝酸カリウム(KNO3)に漬け込むことにより、下図のように、ガラスに含まれるナトリウムイオン(Na+)をカリウムイオン(K+)に入れ替えることができます。

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レンズメーカー・ツァイスの技術解説ページより引用

図のように、ナトリウムイオンに比べてカリウムイオンはイオン半径が大きいため、例えるなら、小さなボールを大きなボールに入れ替えて、ぎゅうぎゅうに詰め込んだような状態となります。これによりガラス表面には「圧縮応力」と言って、緻密に押し合う力が残るようになり、これが表面を傷つけようとする力に逆らうため、より頑丈なガラスにすることができるのです。

ここで形成される圧縮層をより厚く、圧縮率をより高くするように各社が技術を競っていますが、現状ではコーニング社がもっとも優れた開発力を持っていると言えるようです。同社の資料によると、最新のゴリラガラス3では、ごく普通のガラスと比べると、傷をつけるのに15倍近い力が必要になるほど頑丈だそうです。

4. ゴリラガラスに保護フィルムは必要か?

それだけすごいガラスなら、もう保護フィルムは要らないのでは?と思ってしまいますが、これがどうにもややこしいようで、調べてみると、保護フィルム必要派と不要派に分かれて延々と議論していたりします。

筆者の友人たちに話を聞くと、「保護フィルムは不要」と言う人が多いです。理由を聞くと、「ゴリラガラス採用機種においてはフィルムを貼らないほうが使用感がいいため」と言われました。

ここにもコーニング社独自の工夫があり、ゴリラガラスの表面には使用感に配慮したコーティングが施してあります。同社は汚れがついてしまうこと自体は防げないと考え、「汚れを拭き取りやすくすること」「汚れに混じった埃が滑り転がるようにすること」の二点を重視したコーティングを作り上げました。

そのため、下手な保護フィルムを貼るより、ずっと指の滑りがよく、見やすい状態を保って使うことができます。その上、爪先や日用品などでこすってもまず傷はつかないため、普通に使っているぶんには、保護フィルムの必要性を感じません。

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ユーザーによる耐久力検証動画の一部。
ナイフで力強く引っ掻いても傷がついていない。

ただし、ガラスとしては非常に強いとは言え、あくまで傷がつきにくいと言うだけであって、全く傷がつかないわけではありません。

初めて聞いた時は意外に感じたのですが、実はゴリラガラスの天敵は、身近にある砂や埃なのです。自然界の砂や埃には、時々非常に硬い物(主として石英の破片)が含まれており、これが少しずつゴリラガラスの表面を傷つけてしまうそうです。

前述した、コーティングにおける「埃が転がる」ための工夫は、タッチパネル操作時に指先で硬い埃をこすりつけて、パネルを傷つけてしまうことを防ぐ目的もあります。もちろん、少し傷がついた程度ですぐに割れるわけではありませんが、画面の見やすさは低下してしまいます。

なので、砂や埃が付くようなワイルドな使い方をする方には保護フィルムの使用を強くオススメします。特別手荒に扱うことがなければ保護フィルムは必須とまでは言えませんが、のぞき見防止など様々な機能を持った製品もありますし、このあたりは「お好みで」という結論になりそうです。

機種による違いもあるようで、一部の国産のスマートフォンには、見た目には分かりませんが、購入時にすでに安全のため飛散防止フィルムが貼ってあるらしいです。この飛散防止フィルムが比較的傷つきやすく、取り替えがきかない物であるため、手荒に鞄に放り込んだりする方は、保護フィルムを貼ったほうが良いようです。

5. ゴリラガラスのライバルたち

ゴリラガラスは売れに売れており、スマートフォン向け強化ガラス市場では、現状一人勝ちと言っていいほどの大成功を収めています。正確なシェアはコーニング社が公表していないため分からないのですが、大半のスマートフォンやタブレットにゴリラガラスが採用されています。

しかし、ライバルが全くいないわけではありません。最近では、主として国産スマートフォンに、旭硝子の「ドラゴントレイル」という強化ガラスが採用されています。

製造法はゴリラガラスとほとんど一緒らしく、後発で同等のものを出してきているようなので、開発や特許の関係では様々な苦労や戦いがあったのではないかと推測しますが、そのあたりの情報はウェブから読み取ることはできませんでした。

dragontrail

他では日本電気硝子の「CX-01」、独ショット社の「Xensation Cover」などもライバルとして参入しているようですが、まだシェアはとても小さいとの話しです。

また高級腕時計のベゼルなどに採用されているサファイアガラスと呼ばれる素材も、現状高価ですが、価格が下落すれば、スマートフォン向け強化ガラス市場でライバルになると言われており、当サイトでもこちらのニュースで取り上げました。

ゴリラガラスを作り上げたコーニングの技術は素晴らしいものと思いますが、より頑丈なスマートフォンのため、後発各社にも頑張って欲しいと思います。

おまけ:ゴリラが素敵なゴリラガラスのCM

King of the Office 001

Corning Gorilla Glass vol.1: King of the Office?(Youtube)
Corning Gorilla Glass vol.2: Channel Surfing(Youtube)
Corning Gorilla Glass vol.3: Cooking Up Tomorrow’s Kitchen(Youtube)


[corninggorillaglass.com]
[ガラスの強度と破壊(日本板硝子テクノリサーチ)]

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2 件のコメント

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  1. No-Name 2016年7月26日 09:12 No.3510 返信

    ゴリラ

  2. No Name 2017年3月9日 01:12 No.36034 返信

    > 腕時計のベゼルなどに採用されているサファイアガラス
    ベゼルではなく風防です。

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