TechCrunchによると、ITU(国際電気通信連合)が次世代の動画ファイルフォーマットの標準規格にH.265(通称HEVC、以下「HEVC」という)を承認したと伝えています。

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パナソニックが発表した4K有機ELディスプレイ

現行のデジタルテレビ放送は、有効画素数1920×1080(約207万画素)のフルハイビジョン映像をH.262(MPEG-2ビデオ、以下「MPEG-2」という)を用いて圧縮することで放送しています。また、近年はより圧縮率の高いH.264(MPEG-4 AVC、以下「AVC」という)が普及し、高画質な動画をストリーミング再生することができるようになりました。しかし、今年のCESでも見られたように、メーカー各社はすでに4K(一般にフルハイビジョンの4倍の解像度、約829万画素)に向けて動きを加速させています。そのため、さらに圧縮効率の高い方法の策定が求められていました。

今回標準となったHEVCはMPEG-2の約4倍、AVCの約2倍の圧縮性能を持ちます。すなわち、HEVCは同じ画質の映像をAVCの半分、MPEG-2の4分の1程度のサイズで実現することができるのです。これが何を意味するかというと「画質の向上と帯域の削減」です。

画質の向上

たとえば、4Kのテレビ映像をHEVCで圧縮してストリーミング配信する場合、20〜30Mbpsで実現させることができます。今年のCESでは、LGが35Mbpsでテレビ電波を送受信して放送するデモを行いました。ちなみに現行のデジタル放送(MPEG-2圧縮)は、BSデジタルが24Mbps、地上波デジタルが17Mbpsですからほぼ変わらぬ帯域幅で4Kの映像配信が実現できることになります。

また、20〜30Mbpsというと近年のブロードバンド回線ならば十分耐えうるので、オリジナル画質の4Kテレビ放送をストリーミングできるようになります。ただしあくまでもストリーミングですので、電波放送と同時配信というわけにはいきません。さらに言えば、(理論上は)LTE回線でも4Kテレビ放送をオリジナルのままの画質でストリーミングできるようになるといえます。しかしあくまで理論上の話であって、実際は回線が混雑するために不可能なことだと思われます。しかし将来、革新的な通信技術の開発によって不可能が可能に変わることもひょっとしたらあり得るかもしれません。

テレビ放送は圧縮率が割と低く高画質ですが、YouTube画質で満足できるなら8Mbpsもあれば4K解像度の映像をノンストップで再生できるようになります。

またこのHEVCは、昨年8月に標準化された8Kとも呼ばれるUHD(フルハイビジョンの16倍、7680×4320)の処理にも対応しています。UHDはNHKがスーパーハイビジョンとして2005年の愛知万博で紹介したこともあり、記憶に残っている方もいるのではないでしょうか。約3300万画素の映像がテレビやパソコンで見られる時代がそう遠くない未来にやってくるのかもしれません。

帯域の削減

携帯電話で4KやUHD(8K)の映像を再生するのはあまり意味のないことにも思えますが、HEVCの登場は画質の向上だけでなく現在の画質で通信量を半分以下に抑えることが可能になることを意味します。YouTubeでは主にAVCを使って圧縮されますが、1080p(フルハイビジョン、1920×1080)の場合3.6Mbpsとなっています。これをHEVCで圧縮すれば2Mbpsを切ることになりますから、低速なネットワーク環境でもスムーズに動画を見られるようになるのです。スマートフォンやタブレットの普及に伴って爆発的に通信量が増大している現状に対して、これはかなりの朗報だといえます。

通信の中でも動画はかなりデータ量の大きいコンテンツで、しかも年々増え続けています。米シスコ社の予測によると、2016年には個人利用トラフィックのうち86%が動画によるものになるということです。これが現行画質のまま全てHEVCに置き換わった場合、単純計算でも半分以下になるわけですから、かなりの効果があるのではないでしょうか。

課題

ここまでHEVCを紹介してきましたが、ITUが承認したからと言ってすぐに使えるようになるわけではありません。HEVCは高解像度・高圧縮化に伴って演算量が非常に大きくなっており、それを克服した処理機能の開発が最も大きな課題となっています。HEVCは処理の高速化のために並列処理に対応しており、それらを活用した実装を待つこととなります。TechCrunchは、 コーデック(ソフトウェアベースの動画処理機能)の登場が今年末、組み込み向けチップの量産化及び採用は来年上期以降になるだろうと報じており、それらの普及にはもう少し時間がかかるようです。

[TechCrunch via Engadget]
参考[日本経済新聞][みずほ情報総研]