ソフトバンクモバイルは1月30日、Thuraya Telecommunications Company(スラヤ テレコミュニケーション カンパニー、本社:アラブ首長国連邦、以下「スラヤ」)が提供する衛星通信設備を利用して、2013年2月下旬以降に衛星電話サービスを開始すると発表しました。
これによって、災害時など基地局が一時的に使えないような状況でも通信が可能になります。日本のエリアカバー率は100%ですが、電波天文台などの周辺では災害時や非常時を除き使用が制限されています(詳しくは後述)。
主なスペックです。
サイズ | 約53×128×26.5mm(突起部除く) |
重さ | 約193g |
連続通話時間(静止時) | 約6時間 |
連続待受時間(静止時) | 約80時間 |
通信方式 | 衛星(1.6GHz帯) |
通信速度 | パケット通信、下り最大60kbps/上り最大15kbps |
ディスプレイ | 2インチ、176×220ドット |
メール | SMS(日本語入力対応) |
その他 | 生活防水、防塵(IP54) |
衛星通信以外には非対応なのでパケット通信の速度が非常に遅いのが特徴です。しかしメール用途としてはほとんど問題ないかと思われます。また、防水防塵になっているのは重要です。非常時にこそ頼りたいこの電話機はタフであってほしいものです。
次にサービスエリアですが、次のようになっています。
ソフトバンクの提供する衛星電話の対応エリア
アメリカ大陸がすっぽり抜けていますが、ほかの地域では多くの場所が対応しています。なお、先ほども書きましたが、国内では通常時の使用に制限のある地域があります。
一部または全域が制限されているエリア
● 大規模な自然災害(暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火)により、通常の連絡手段が使用できないとき。この制限エリアについて、次のように記載がありました。
(1)次の場合は、特に連絡することなくご利用いただけます。
● 大規模な人的災害(原発事故、停電、航空機等の墜落、暴動、動乱、テロなど)により、通常の連絡手段が使用できないとき。
● 次の期間に防災訓練で利用される場合(防災訓練以外の目的での利用は認められていません)。
【防災訓練用途のご利用可能期間】
毎年 3月11日から3月17日まで
毎年 9月1日から9月7日まで
(2)上記以外の場合は、ご利用の事後に連絡窓口へのご連絡が必要です。
例:山岳遭難、火災、車両事故、航空事故等の、個別に発生した緊急時。
国内他社の衛星電話サービス
ドコモには、日本上空の独自衛星を使ったワイドスターという衛星電話があります。ワイドスターはフェリーなどの船内の衛星電話で見たことがある方もいるでしょう。しかしこれは携帯電話としては使われません。
イギリス企業のインマルサットが持つ衛星を利用した衛星電話サービスは、ドコモとKDDIなどから提供されています。ソフトバンクが提携したスラヤの衛星とインマルサットの衛星は規格がほとんど同じで、かつてインマルサットがスラヤの衛星を一時的に借りていたこともあるほどです。ですから実質的な競合はインマルサットを使った電話サービスとなります。
このインマルサット衛星は静止衛星ですが、11台で世界のほぼ全域をカバーしています。
インマルサットのカバーエリア(ドコモHPより)
そしてKDDIからは、これに加えてイリジウム衛星電話サービスが提供されています。イリジウムはモトローラがかつて設置した衛星群で構成されており、現在66個の衛星が低高度に配置され、全地球(北朝鮮、スリランカ北東部を除く)をカバーしています。
イリジウム衛星の配置イメージ
このように、エリアカバー度が段違いのサービスを競合他社はすでに所有しています。それに対してソフトバンクがどう対応していくのかというと、やはり価格です。具体的には端末価格です。
価格
基本使用料 | 4900円/月 |
無料通信 | 1000円/月 |
通話料(国内発・海外発) | 160円/分 |
SMS通信料(国内発・海外発) | 70円/通 |
データ通信料 | 2円/1KB |
2年契約なしの「衛星電話プラン」もあり、基本使用料9800円/月で、通話料通信料はバリュープランと同じです。
定額料 | 2000円/月 |
通話料(国内発) | 40円/分に値下げ |
SMS(国内発) | 20円/通に値下げ |
やはり衛星電話は普通の携帯電話のように安くはなりません。基本パックのみでは他社とほぼ同じ基本料金・単価ですが、オプションに加入すれば通話単価がかなり安くなります。17分以上通話する方はこちらのほうがお得です。
ソフトバンクのこのプランには2年縛り(更新月以外は9975円の契約解除料が発生)があるのがミソで、実は2年縛りを適用しないとドコモやKDDIの提供する衛星電話サービスの料金の倍近くしてしまいます。しかし、SankeiBizによると、ソフトバンクは9万円ほどする他社のインマルサット用の機種価格に比べて4万円ほど安く設定し、月々の利用額から約2000円を差し引くいわゆる月月割によって端末代金を実質0円にする予定です。イリジウムは非常に高性能ですが機種台に24万円ほどかかるので求める層が違うと思われます。
「全世界カバー率の低さを価格の低さでカバーする」というと、いかにもソフトバンクらしいなどと揶揄されるかもしれませんが、この衛星を管理しているのはスラヤであり、ソフトバンクではありません。そもそも衛星の電波に関しては携帯電話の電波とまた違った各国の事情があるため、スラヤのほうも簡単にサービスを開始できないのです。
また、主な顧客は自治体や法人ですが、それらのユーザーから求められているのは、普段から世界各国でつながるか否かではなく、災害時に「国内で」つながるか否かという点なので、海外のカバー率は最重要項目ではないと思われます。よって、端末料金の安さで勝負するというのは正しい戦略だといえるのではないでしょうか。
これで、大手携帯会社が三社とも衛星電話サービスに参入しました。地上の事情に左右されない衛星電話は、これから起こりうる巨大地震などの広範囲な災害において特にその実力を発揮することでしょう。価格は高いものの、これらの普及によって一人でも多くの命が助かることを願います。
本記事の掲載が遅くなりましたことをお詫びいたします。
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